【イベントレポ】現実科学ラボ・レクチャーシリーズVol.9 福原志保さんと考える「現実とは?」

現実科学ラボでは、各分野で活躍している専門家とともに「現実とは?」について考えていくレクチャーシリーズを2020年6月より毎月開催しています。

第9回となる今回は、2021年2月22日、アーティストの福原志保さんをお迎えしました。後半のパネルディスカッションでは、スペシャルゲストとして、メディアアーティストの八谷和彦さんにも議論に加わっていただきました。

本記事では、当日の簡単なレポートをお届けします。

https://reality-science009.peatix.com/?lang=ja

現実科学とは

現実科学ラボ・レクチャーシリーズは、デジタルハリウッド大学さまの提供でお届けしています。

 

ゲスト紹介

福原志保氏
2001年、セントラル・セント・マーチンズのファインアート学士過程を、2003年ロイヤル・カレッジ・オブ・アートのインタラクション・デザイン修士課程を修了。 同年に、ゲオアク・トレメルとともに英国科学技術芸術基金のパイオニア・アワードを受賞し、バイオプレゼンス社をロンドンで設立。 その後、2007年より活動拠点を日本に移し、アーティスティック・リサーチ・フレームワークBCLを結成。 また2014年より、テクノロジーと工芸、身体性と審美性と物質性の関係が、我々の意識にクリティカルに介することに注目し、生活をとりまくあらゆるモノに知能を与えるための新技術とプラットフォームの開発に従事している。

八谷和彦氏
メディア・アーティスト.佐賀市出身.1966年4月18日(発明の日)生まれ.九州芸術工科大学(現九州大学芸術工学部)画像設計学科卒業.個人TV放送局ユニット「SMTV」,コンサルティング会社勤務を経て現在に至る.作品には《視聴覚交換マシン》や《見ることは信じること》などの特殊コミュニケーション・ツール・シリーズ,ジェット・エンジン付きスケート・ボード《エアボード》や《オープンスカイ》など機能をもった装置が多い.メールソフト《ポストペット》の開発者でもあり,自身が取締役を務めるポストペット関連のソフトウェア開発を行なう会社「ペットワークス」では,現在Twitterクライアント「PostPetNow」を開発中.

アートは…気づきを与える

COVID-19が世界的猛威を振るった2020年。様々な未来があり得る世界で、私たちは2019年には想像もしなかった「とんでもない未来」に行き着いてしまったようです。そのような不確定で不安定な現在、分からないことで溢れかえっている世界に、どのような「答え」を見出していけば良いのでしょうか。

福原さんは、アートの持つ性質を以下の三点のようにまとめました。

  • 議論のツール:議論を促し、様々な意見を生み出す。多様な問いかけで沢山の答えを生み出す。
  • 社会的インパクトについて探求する:バイオテクノロジーやインターネットのように、指数関数的に発展するテクノロジーによる社会へのインパクトについて考察する。
  • 気づきを与える:技術発展における倫理問題などについて「変わった方法」で気づきを与える。

これから起こり得る様々な未来について、アートは問いかけ、多様な答えを生み出し、気づきを与える力を持っています。福原さは、がこれまで行ってきた「問いかけ」の活動を通じて考えてきた「現実」について紹介しました。

Common Flowers Trilogy / White Out

BCL「Common Flowers / Flower Commons」

サントリーフラワーズ社が遺伝子組み換えによって作り出し、販売を始めた青いカーネーション。この花に植物細胞培養で根を与え、自然界で自生させるプロジェクトが《Common Flowers / Flower Commons》です。さらに、その人工的に作られた青いカーネーションに再び遺伝子組み換えを施し、人工的に白へと戻す試み《Common Flowers / White Out》が続きます。

遺伝子組み換えによって新たに作られた生命を一企業の商品として占有していいのか、その「命」は誰の所有物なのか。青いカーネーションを自然に咲く「普通の花」に戻すことを通じて、福原さんはそのような問いかけを行いました。

Ghost in the Cell:細胞の中の幽霊

BCL + Semitransparent Design 《Ghost in the Cell》

生と死、生きているとは、死んでいるとは何か。心臓が動いていれば、ものを食べていれば、子孫を作れば、成長すれば、それは生きていると言えるのか。

「Ghost in the Cell:細胞の中の幽霊」は、そうした問いに基づいて、VOCALOIDのキャラクターとして知られる「初音ミク」に遺伝子と細胞を与えるプロジェクトです。

「hmDNA」と呼ばれたこのプロジェクトは、インターネット上でユーザー同士が協力しながら、初音ミクの外見的特徴(「緑の目」や「明るい肌の色」など)を記したDNA配列データを作り、それを組み込まれたiPS細胞から心筋細胞を作り出すというもの。

2015年から2016年にかけて行われた展示では、全国各地から多くのファンがこの「初音ミク」のためにはるばる美術館を訪れ、中には何時間もこの細胞の前で立ち尽くす人もいたそうです。

Biopresence

BCL「Biopresence」

故人の皮膚から採取したDNAを木の遺伝子の中に保存することで、成長したその木が「生きた墓標」に変わる「Biopresence」。これまで、この写真のように木を抱く人はTree Hugger(木を抱く人)と呼ばれ、その行為は環境保護への意志を表すとされてきました。BiopresenceはTree Huggerに「死んだ祖母を偲ぶ人」という新しい意味を与えるかもしれません。

木の隅々の細胞まで故人の遺伝子が行き渡ることで、当然その木になるリンゴの実も故人の遺伝子を持つことになります。あなたは死んだ祖母の遺伝子を保持しているリンゴを食べる時、何を思いますか?ヨーロッパではこのリンゴを食べたくないと答える人が多いそうです。

BLP-2000D:ブラックリストプリンター

パンデミックを起こす危険性があるとしてブラックリストに登録されているウィルスのDNA配列(ゲノム解析の結果がオンラインで公開されている)をプリントアウトしていく作品。写真後方の注射器に装填されたアミノ酸がインクとなり、紙にウィルスの設計図を刻み続けていく。

紙自体はウィルスを伝染させることがない一方で、どこか危険な香りを感じさせます。実際、悪意のある人がその気になれば、この紙の印字をもとにウィルスを復元することができますが、そもそも印刷されたデータはオンラインで公開されているものであり……。現在のバイオテクノロジーに関する倫理観を問う作品です。

More Questions More Explorations

DIY(Do-It-Yourself)バイオをやり続けてきた福原さんは、アーティストの孤独に向き合い続けてきました。そうした活動の中で始めたのが、他者との共同を掲げたDIWO(Do-It-With-Others)。

多くの人を巻き込みながら、福原さんはアーティストとして作品を通じて問い続けてきました。さらに、問うて終わるのではなく、その問いに対して議論をすることが、アートにおいて何よりも大事だと福原さんは強調します。

問いを投げ、議論を巻き起こし、多くの人がそれぞれの多様な答えを出し合う「探求(Exploration)」を推進することで、みんなの箱を開けていく。Inside Out of Box。福原さんのそうした活動に加わり、多様な問いに、多様な議論と、多様な答えを出し続けていきたいと思わせる講演でした。

福原さんにとって「現実とは」

湧き上がってくる何か。

福原さんはそのように語り、イベントを締めくくりました。

 

【イベントレポ】現実科学ラボ・レクチャーシリーズVol.8 暦本純一先生と考える「現実とは?」

現実科学ラボでは、各分野で活躍している専門家とともに「現実とは?」について考えていくレクチャーシリーズを2020年6月より毎月開催しています。

第8回となる今回は、2021年1月21日、研究者の暦本純一さんをお迎えしました。後半のパネルディスカッションでは、スペシャルゲストとして、ユカイ工学の青木俊介さんにも議論に加わっていただきました。

本記事では、当日の簡単なレポートをお届けします。

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現実科学とは

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現実科学ラボ・レクチャーシリーズは、デジタルハリウッド大学さまの提供でお届けしています。

暦本純一さん

 

 

 

 

 

 

 

情報科学者。東京大学情報学環教授、ソニーコンピュータサイエンス研究所フェロー・副所長、ソニーCSL京都ディレクター。世界初のモバイルAR(拡張現実)システムNaviCamを1990年代に試作、マルチタッチの基礎研究を世界に先駆けて行うなど常に時代を先導する研究活動を展開している。現在は、Human Augmentaion(人間拡張)をテーマに、人間とAIの能力がネットワークを越えて相互接続・進化していく未来社会ビジョン Internet of Abilities (IoA)の具現化を行っている。iF Interaction Design Award(2000)、日本文化デザイン賞(2003)、日経BP技術賞(2008), 日本ソフトウェア科学会基礎科学賞(2014), ACM UIST Lasting Impact Award(2014, 2017)などを受賞。2007年にACM SIGCHI Academyに選出される。
近著に「妄想する頭 思考する手」(祥伝社)。

青木俊介さん

 

 

 

 

 

 


東京大学工学部在学中に、チームラボ株式会社を設立、CTOに就任。 その後、ピクシブ株式会社のCTOを務めたのち、ロボティクスベンチャー「ユカイ工学」を設立。「ロボティクスで世界をユカイに」というビジョンのもと家庭向けロボット製品を数多く手がける。 2014年、家族をつなぐコミュニケーションロボット「BOCCO」を発表。2017年、しっぽのついたクッション型セラピーロボット「Qoobo」を発表。 2015 年よりグッドデザイン賞審査委員。

人間拡張 / Human Augmentation

 

暦本さんは、人間と一体化して能力を拡張させるテクノロジーを開拓する「ヒューマンオーグメンテーション(Human Augmentation)」というコンセプトを提唱し、研究を進めています。

 

 

 

 

 

 

暦本さんはまず、人間拡張研究の事例を紹介しました。

Naoki Kimura, Michinari Kono, Jun Rekimoto. SottoVoce: An Ultrasound Imaging-Based Silent Speech Interaction Using Deep Neural Networks, ACM CHI 2019

超音波エコーで口内の動きをセンシングし、その動きを機械学習で推定することで、声を発することなくコンピュータに言いたいことを伝えることができる「SottoVoce」

Sidney Fels and Geoffrey Hinton. 1995. Glove-TalkII: an adaptive gesture-to-formant interface. In Proceedings of the SIGCHI Conference on Human Factors in Computing Systems (CHI ’95).

手を使って「しゃべる」ことができる「Glove Talk II」

さながら映画「マトリックス」で能力を「ダウンロード」するトリニティーのように、人は既にコンピュータと一体となりつつあります。AirPodsはそのポピュラーな一例。AirPodsのマイクは骨伝導音声を使ってノイズ除去をしているため、いわば「人間と一体化しないと意味がないデバイス」なのです。人とコンピュータが融合された状態を、暦本さんは脳の外側に電脳皮質(Cybercorttex)が形成されたようなものと例えます。

 

 

 

 

 

 

 

さらに、このようにテクノロジーが人間を拡張すると同時に、人間がテクノロジーに「合わせる」ようになる場合も。

 

 

 

 

 

 

 

SottoVoceを練習する暦本さん。コンピュータが人に情報を提示し、人はその情報をもとに行動を決定する。近年では、コンピュータなしでは成立しないような行動もある。この時コンピュータは、既に人間の身体の一部になっていると捉えることもできるのです。

現実を編集する

 

 

 

 

 

 

 

https://dl.acm.org/doi/10.1145/2832932.2832950

Kei Nitta, Keita Higuchi, Yuichi Tadokoro, and Jun Rekimoto. 2015. Shepherd pass: ability tuning for augmented sports using ball-shaped quadcopter. In Proceedings of the 12th International Conference on Advances in Computer Entertainment Technology (ACE ’15). 

暦本さんの話は、人間拡張から現実の編集へ移りました。こちらはドローンを用いてボールに働く見かけの物理法則を変化させることができる「Shepherd pass」。コンセプト検証の段階ではあるものの、例えば初心者にはゆっくり、上級者には高速で飛んでいくボールや、絶対にキャッチされないボールを実現することができます。

Xinlei Zhang, Takashi Miyaki, and Jun Rekimoto. 2020. WithYou: Automated Adaptive Speech Tutoring With Context-Dependent Speech Recognition. In Proceedings of the 2020 CHI Conference on Human Factors in Computing Systems (CHI ’20).

これは、喋り手に合わせてスピードを自動で変えてくれるシャドウイング(英語音声に追従して音読するトレーニング)ソフトウェア「WithYou」。WithYouは、練習者の技能に合わせた「現実歪曲空間」を実現していると捉えることができます。コンピュータを通じた時間的体験の操作は、いわば現実を編集する技術なのです。

Virtual Reality

暦本さんは、現在普及しつつあるヘッドセットを中心とした視聴覚のVirtual Reality技術で実現できるのは、あくまでもお約束としての「現実」であると指摘します。本来の「自然な」現実はもっと豊かな情報を持っている。

例えば5Gが登場した際に、8K画質で鮎の映像を送れたとしても、味や食感が伝わってこない限りは料理体験としては不十分です。リアルの良さ、デジタルの良さ、それぞれをきちんと理解し、目的に応じて両者をうまく使い分けていく必要があります。

 

 

 

 

 

 

 

そういった指摘の一方で、「自然」とは一体何なのでしょうか?その問の端緒になるとして挙げられたのが、LURRA° Kyotoで提供された鮎料理。料理人による極めて緻密な作り込みがなされていた鮎は「リアル(天然)だけれど非日常的」だったと暦本さんは語ります。

私たちの現実には、例えば長時間の満員電車で通勤したオフィスで電子メールを作成するなど、つらいRealを経て実質的にCyberな業務を行っていると見ることもできます。このようなRealとCyberが変に絡み合っている状況に対して、暦本さんは「CyberでできることをわざわざRealでやる必要はなく、その逆もまた然り」と述べました。

暦本さんにとっての「現実とは」

「究極的には自分で定義できるもの」

そう言って暦本さんは講演を締めくくりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

講演終了後、青木さんを迎えて3人でのパネルディスカッションが行われました。

【イベントレポ】現実科学ラボ・レクチャーシリーズVol.7 養老孟司先生と考える「現実とは?」

現実科学ラボでは、各分野で活躍している専門家とともに「現実とは?」について考えていくレクチャーシリーズを2020年6月より毎月開催しています。

第7回となる今回は、2020年12月12日、研究者の養老孟司さんをお迎えしました。さらにスペシャルゲストとして、株式会社アラヤ CEOの金井良太さんにも議論に加わっていただきました。

本記事では、当日の簡単なレポートをお届けします。

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現実科学とは

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現実科学ラボ・レクチャーシリーズは、デジタルハリウッド大学さまの提供でお届けしています。

養老孟司さん

 

 

 

 

 

 

 

1937(昭和12)年、神奈川県鎌倉市生まれ。1962年東京大学医学部卒業後、解剖学教室に入る。1995年東京大学医学部教授を退官し、東京大学名誉教授に。著書に『からだの見方』(サントリー学芸賞受賞)『形を読む』『解剖学教室へようこそ』『日本人の身体観』『唯脳論』『バカの壁』『「自分」の壁』『養老孟司の大言論Ⅰ~Ⅲ』『身体巡礼』『骸骨巡礼』『遺言。』など多数。昆虫を通して生命世界を読み解きつつ、「身体の喪失」から来る社会の変化について思索を続けている。(写真:新潮社)

金井良太さん

 

 

 

 

 

 

 

京都大学理学部生物物理学科卒業。オランダ・ユトレヒト大学で実験心理学PhD取得。カルフォルニア工科大学にて、下條信輔教授のもとで視覚経験と時間感覚の研究に従事。前英国サセックス大学准教授(認知神経科学)。2013年に株式会社アラヤを設立。内閣府ムーンショット型研究開発制度PM。

「その人の行動を変えるものがその人にとっての現実」

養老:僕は競馬の馬券を見たことがありません。たとえそれが落ちていてもきっと拾わないでしょう。けれども僕は虫が好きだから、虫が歩いているのを発見したら必ず立ち止まって正体を確かめる。このように、その人の行動に影響を与えるものこそ、その人にとっての実在であり、現実であると僕は思います。

現実は脳が作っている、というのは恐らく間違いない。では、脳の中のどこかに「現実感」を与える機能を持った場所はあるのでしょうか?これは「意識」の問題にも通じている気がします。

例えば離人症(自分が自分ではないと感じる症状)は、この問題に通じているかもしれない。離人症になると、まるで羊水の中に浸かっているように、あらゆる刺激がフィルターを一枚挟んで感じられるようになるとされています。このような「現実感がなくなってしまった症状」を解明できれば、その裏返しとして、脳の側から現実というものに迫れるかもしれません。

金井:現実と意識はどういった関係にあると思われますか?

養老:どちらも非常に近いもののように思えますね。

藤井:現実感は強いのに意識がはっきりとしていない、もしくはその逆の状態は何か考えられるでしょうか。

養老:夢遊病は、現実感は強いのに意識がはっきりとしていない一例かもしれません。そして意識ははっきりとしているのに現実感がないのが離人症だと解釈することもできそうですね。

藤井:金井さんが「意識」という問題に興味を持つようになったのはいつからですか?

金井:物理学を学び始めて、これで自分は外の世界にあるものを説明できるようになったと感じた時、ではあたりまえのものとして自分を構成している「意識」はどのように説明できるのだろうか?と考えたのがきっかけだったように思います。人の意識に掛かれば、自分の外の世界に物質的な実在がなかったとしても、主観的にはそれが「ある」と感じられるのが非常に面白いですよね。

藤井:自然には存在していなかった「現実」を人間が自分たちで作ってしまったことの筆頭が、「お金」ですね。他にも例えば、「宇宙人にさらわれて脳を手術された!」と言う人は、宇宙人という概念が誕生する前はいなかったわけで、そうした発言は「宇宙人」なるものが世の中で定義されて初めて成り立つ世界理解の仕方だよなと思います。

抽象化の極限としての神

藤井:世界理解という話で言えば、養老先生は「神」というものをどのように解釈しているのですか?

養老:人は、多様な感覚入力から整理された概念を作ります。例えば、木になる赤い球体を観察してりんごと名付け、大きいりんご、小さいりんご、切ったりんごなどのバラエティを全て「りんご」と分類できるようになります。

さらにそこにナシやブドウが出てくると、りんごの一つ上の概念、「果物」で以ってそれらを結びます。そうやってどんどん分類の抽象化を行なっていくと、最後には一つになるはずです。宇宙のあらゆるもの全てを包含した、一つの「何か」に行き着きます。唯一絶対の神は、そのような存在ではないでしょうか。

藤井:なるほど、抽象化の究極は一つにまとまらなければいけない!

養老:神についてこのように考えると、その裏側には階層性が見え隠れしているような気がします。人の思考が階層性を持っているのは、言語のせいかもしれませんね。例えば英語は、アルファベットを先頭から末尾にかけて並べることで単語を作るという階層性を持っています。一つ一つの文字が意味を持っているわけではない。しかもその中には、dogの文字を入れ替えるとgodになってしまうなどという極端な階層性まで入っている。

藤井:階層性……分類。分類することは、すなわち理解することですよね。世界にある多様なものを、抽象化せず、多様なままで理解する方法はあるんでしょうか?

養老:それは非常に難しいと思います。いつも、何かを概念化しても、新しい様々な材料を集めてきてそれを見直すとガラガラと崩れてしまう。具体と抽象を行ったり来たり、その繰り返しですね。

感覚と概念

養老:脳と外界をつなぐのが感覚ですよね。僕は最近、感覚と抽象化された概念は何が違うんだろうと考えています。そこで思ったのは、感覚は異なるもの、差分を認知する一方で、概念は異なるもの同士を統合、同じにする。

数はその典型です。うさぎだろうが犬だろうが、1匹は1匹であり、こうした考えは万物に共通です。そこでふと、この「同じにする」能力は人間にしかないのではないか、人間の意識の特徴なのではないかと思いました。

そして動物が言葉を作れないのは、感覚による差分、細部に密着してしまい、「違い」だけで生きているからなのではないか。それと引き換えに彼ら動物は感覚が鋭敏なのではないか。

金井:先生は、人が抽象化した概念の中だけで生きることに対して批判的な立場を取られていると思うのですが、感覚と概念にはどのように折り合いをつけたらいいんでしょうか?

養老:グローバリゼーションはその典型かもしれませんが、コントロールしやすいように頭の中だけで世界を作ると、コントロールできないものが出来上がってしまう危険性があります。綺麗に一元化した世界を組み立ててしまうと、不測の事態が起きた時に簡単に壊れてしまう。そういう意味で、日常的に感覚的なものに触れるような経験は必要と思います。感覚的なものに触れることを通じて、絶えず頭の中の概念を訂正するんです。

養老先生にとっての「現実とは」

あなたを動かすもの。

この養老さんの言葉を以って、イベントは締めくくられました。

【イベントレポ】現実科学ラボ・レクチャーシリーズ Vol.6 建築家の豊田啓介さんと考える「現実とは?」

現実科学ラボでは、各分野で活躍している専門家とともに「現実とは?」について考えていくレクチャーシリーズを2020年6月より毎月開催しています。

第6回となる今回は、2020年11月24日、建築家の豊田啓介さんをお迎えしました。さらにスペシャルゲストとして、株式会社imaCEOの三浦亜美さんにも議論に加わっていただきました。

本記事では、当日の簡単なレポートをお届けします。

https://reality-science006.peatix.com/?lang=ja

現実科学とは

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現実科学ラボ・レクチャーシリーズは、デジタルハリウッド大学さまの提供でお届けしています。

豊田啓介さん

 

 

 

 

建築家 noizパートナー、gluonパートナー、東京大学生産技術研究所客員教授

1972年、千葉県出身。1996年、東京大学工学部建築学科卒業。1996~2000年、安dd藤忠雄建築研究所を経て、2002年コロンビア大学建築学部修士課程(AAD)修了。2002~2006年、SHoP Architects(ニューヨーク)を経て、2007年より東京と台北をベースに建築デザイン事務所 noiz を蔡佳萱と設立、2016年に酒井康介が加わり共同主宰。2017年、「建築・都市×テック×ビジネス」をテーマにした領域横断型プラットフォーム gluonを金田充弘と共同で設立。コンピューテーショナルデザインを積極的に取り入れた設計・開発・リサーチ・コンサルティング等の活動を、 建築やインテリア、都市、ファッションなど、多分野横断型で展開している。現在、東京藝術大学アートメディアセンター非常勤講師、慶應義塾大学SFC非常勤講師、芸術情報大学院大学 (IAMAS)非常勤講師、東京大学生産技術研究所客員教授(2020年~)。「WIRED Audi INNOVATION AWAED 2016」受賞イノヴェイター。2025年大阪・関西国際博覧会 誘致会場計画 アドバイザー(2017年~2018年)。著書に「Rhinoceros+Grasshopper 建築デザイン実践ハン ドブック」(共著、2010年、彰国社)など。

三浦亜美さん

 

 

 

 

 

株式会社ima 代表取締役CEO
学生時代に事業を立ち上げ、その後、単身でバックパッカーとして世界を回る。帰国後は株式会社サンブリッジというベンチャーキャピタル(VC)で海外クラウドサービスの日本法人立ち上げや、インキュベーション施設の立ち上げなどを行う。
2013年、株式会社imaを創業。日本酒、伝統工芸品、ユニークな技術などに最新のテクノロジーやVCでの知見を持ち込み、事業継承の仕組みをつくる。2016年、一般社団法人awa酒協会を設立。2017年、つくば市まちづくりアドバイザーに就任。2020年、スタートアップ・エコシステム 東京コンソーシアム アドバイザーに就任。
AIを活用したプロジェクトでは、日本酒の酒造りにおける匠の技をAIでサポートしながら技術継承にも寄与する「AI-sake」やAIによるアートの創造「AI-Mural」の実績をもつ。

情報と物質

豊田さんはまず、自身の関わったプロジェクトを例に挙げながら、情報と物質の関わりについて紹介しました。

ファンが、フレキシブルなLEDディスプレイディスプレイをのれんのように吹き上げると、映像も風をうけているように吹き飛んでいく「BAO BAO ISSEY MIYAKE GINZA MATSUYA Display」。情報と物質という連動するはずのないものが、あたかも直接影響を与え合っているような表現を通して、それぞれの存在をあらためて問い直す展示。

畳を製作する上での材料の規格や製法、ヴォロノイ図の幾何学的な規則をアルゴリズムに落とし込んだ「Tatami Generator β」によって、世界に一つだけのパターンをその都度生成するヴォロノイ畳《TESSE》。形状や畳の目の向き、天然素材ならではの色の変化を自在に組み替え好みに応じた個別生産が実現できる。

このように、二項対立で語られやすい情報と物質の二者間の境界は、テクノロジーによって徐々に曖昧になりつつあります。そして情報と物質が相互作用するような世界では、情報と物質がそれぞれに閉じたものだと考える従来のやり方を超えてアセットを活用できると豊田さんは語ります。

例えば建築の領域でも、BIMデータをはじめとする様々な「情報」が物質ベースの作業工程に導入されつつあるものの、それらの用途はあくまでも設計と施工に閉じており、豊かな階層を持ったメタデータが十分に(例えば企画や運用などに)活用されていない状況なのだそうです。こうした様々な「情報」を汎用化した基盤を、豊田さんは「コモングラウンド」と呼びます。

Expanded Dimension of Architecture

credit; noiz
https://noizarchitects.com/archives/works/diagram

Diagram for Expanded Dimension of Architectureと題されたこの図は、右下の建築家(architect)が右上の建築物(BUILDING)を創造するプロセスを示し、建築という営みに関わる様々な次元が可視化されています。

図面や模型は建築において重要なイメージの伝達方法ですが、しかしそれでも建築家が思い描いた理想から様々な情報が抜け落ちてしまいます。静的な、物としての建築(BUILDING)も重要なインターフェースではあるものの、実はその外側に、より広い情報的総体としての建築があるのだと豊田さんは語ります。この建築の情報的側面について、我々はまだ上手い扱い方も、価値化の仕方も十分に知らない状況にあります。

コモングラウンド

 

他方、近年では実環境から情報を抽出するセンシング技術や、センシングに基づいた制御技術も目覚ましい進歩を遂げています。例えば、映画におけるドラゴンのアニメーションを俳優の動きを元に生成したり、筋電を元に義手を制御したりなど。

豊田さんは、物理世界と情報の相互作用が当たり前になると、物(例えば身体)そのもののあり方も再考する必要が出てくると語ります。腕は2本でなくてもいいかもしれない、肩についていてもいいかもしれない、ドアの横についていてもいいかもしれない、未来のドアマンは10本のドアの横の手を制御する仕事をしているかもしれない……。そのような世界では、どこまでが身体でどこからが環境なのかが極めて曖昧になっていることでしょう。

建築家は、今まさに情報技術が変革する「あたりまえ」を理解し、数年後にできる建物や数十年後にできる都市計画などに反映させなければいけない。建築物が自分の身体性を持っている自律エージェントのようなもので、我々の身体の一部を担うような世界では、どのようなセンシングを、制御を、プラットフォームを構築する必要があるのか。

 

例えば視点一つとっても、体外離脱した視点から自己を眺める、他人の視点に「乗り移る」など、身体と環境が一体となった新しい身体性が実現する可能性があります。こうした体験を建築の側から実現するためにはどのようなサポートをするべきなのでしょうか。

 

豊田さんはそういった世界が実現した際に、物質環境と情報環境をシームレスに接続するためのプラットフォームとして「コモングラウンド」を提唱しています。物質世界とデジタル世界はそれぞれで高度なプラットフォームが整備されていますが、例えば物質環境の情報をデジタルエージェントにとって理解しやすい形に整備するなど、物と情報のつなぎ目を担うのがコモングラウンドです。物質会場だけではない、バーチャル会場だけでもない、両者が接続されるコモングラウンドを整備することは、今後喫緊の課題になると考えられます。

豊田さんは現在、2025年の大阪万博を舞台として、そうした情報都市の構築について模索しているそうです。

豊田さんにとっての「現実とは」

現実というと、「拡散した色々な選択肢の中にある、掴みどころのあるもの」といったイメージを持たれがちですが、僕にとっては、むしろ現実の方が拡散するイメージです。扱いきれない、理解しきれない、無限の選択肢の集合体。そして建築家は、現実は完全には扱いきれないという前提に立った上で、どこを扱えるものとして切り取ってくるかという発想をしているのではないかと思います。

豊田さんはこのように語って、講演を締めくくりました。

 

講演終了後、三浦さんを迎え、3人でのパネルディスカッションが行われました。

【イベントレポ】現実科学ラボ・レクチャーシリーズVol.5 建築家、作家、アーティストの坂口恭平さんと考える「現実とは?」

現実科学ラボでは、各分野で活躍している専門家とともに「現実とは?」について考えていくレクチャーシリーズを2020年6月より毎月開催しています。

第5回となる今回は、2020年10月20日、建築家、作家、アーティストの坂口恭平さんをお迎えしました。さらにスペシャルゲストとして、バイオアーティストである福原志保さんにも議論に加わっていただきました。

本記事では、当日の簡単なレポートをお届けします。

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現実科学とは

坂口恭平さん

1978年、熊本県生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。2004年に路上生活者の住居を撮影した写真集『0円ハウス』(リトルモア)を刊行。以降、ルポルタージュ、小説、思想書、画集、料理書など多岐にわたるジャンルの書籍、そして音楽などを発表している。2011年5月10日には、福島第一原子力発電所事故後の政府の対応に疑問を抱き、自ら新政府初代内閣総理大臣を名乗り、新政府を樹立した。躁鬱病であることを公言し、希死念慮に苦しむ人々との対話「いのっちの電話」を自らの携帯電話(090-8106-4666)で続けている。近刊に『建設現場』(みすず書房)、『cook』(晶文社)、『まとまらない人』(リトルモア)など多数。

砂の声

幼少の頃、福岡県にある電電公社の社宅に住んでいました。少し離れたところには漁師町がありました。団地と漁師町の間に、何か境界があるように感じられました。漁師町へ続く道は砂利なのですが、社宅の団地はコンクリートで整えられていました。植栽も整えられていました。

団地のコンクリートから砂利道へ一歩踏み出すと、ホームから離れた不安感のような感覚とともに、土の上で生きる人としての歓びが確かにありました。

4、5歳の頃の僕は、ウスバカゲロウの幼虫である蟻地獄が好きでした。しかし蟻地獄は、少し離れた白浜の方の砂にはいるのに、うちの団地にはいなかった。何で同じ砂なのに、蟻地獄は片方にしかいないのか?それを調べるために僕がエビデンスとしたのは「声」でした。人ではない、砂の声です。当時の僕は、人と同じように、砂の声を聞いていたのです。

砂は「私たちは別のところから運ばれてきたのです。」とすすり泣いていました。その時、僕は「ここ」にある砂や石を、無闇に、人の勝手な思いつきで別のところへ持って行ってはいけないのだと強く感じました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今になっても僕はどうしても、資本主義だとか、米国の企業がどうとか、そういう話がうまく頭に入ってこないのです。それよりも砂と対話することの方がずっと自然に感じるのです。そういうわけで僕は最近、畑を始めました。

畑を始めたその時、砂が「Welcome back」と僕に語りかけてきました。記憶なのか、妄想なのか、夢なのか、現実なのか、もはや何だったのかわからないけれど、確かにその声を聞いたのです。

思えば土というのは、僕にとって常に大きな問題として現れてきました。

なぜ土地を所有して「良い」のか?

思えば高校生の時も、先生に「なぜ土地を所有していいのか?」と質問をして困らせていました。先生は「それは税金を払うためであり……」と近代資本主義のようなのことを僕に植え付けようとしてきますが、依然として僕には全く分かりませんでした。

猫にも風にも、土地を「所有する」という観念はないのに、なぜ人間だけが土地を所有していいんでしょうか?どんな法律を探しても、土地の所有を人間に許可するような証拠は見当たりません。

そんな根本の原理が成立していない以上、僕は建築をすることができませんでした。周りの人たちは当たり前のように「土地を所有する」という現実を生きているけれども、僕にはそれは現実ではないように思われるのです。

現実なんて、ない。自然を所有することは、できない。みんなが勝手に現実だと思い込んでいるものは、ハリボテに過ぎない。現実が「生音」だとすると、多くの人は周波数がカットされ、加工された後のmp3を現実(生音)だと思い込んでいるように感じます。本当は生音となる周波数の波がそこら中にあるのだから、加工することなしにそのまま受け取ることはできないのでしょうか。

茄子が救った女の子

僕は「いのっちの電話」という、死にたい人であれば誰でもかけることができる電話サービスを、2012年から無料でやっています。本家となる「いのちの電話」がほとんどつながらないという現状を知って、一人で勝手にはじめました。

ある日、19歳の女の子から電話がかかってきました。僕は、「最後に俺のお願いを聞いてくれないか」と彼女に言いました。

「まず、お母さんは家庭菜園とかやってない?」

「やってます」

「いいね、今生存率がグッと上がったぞ。畝の中に、両手を手首まで入れて、30分過ごしてからまた電話してくれる?」

そういって電話を切ると、30分後にまた電話がかかってきました。

「やってきました。何も変わりませんでした、もう死んでいいですか?」

「今のは挨拶だから。畝に手を入れるっていうのは、畝の心の中に手を入れるようなもので、これで向こう(畝)は君の手の匂いを感じた。次にお前が近づいたら、声を放つから聞いてみてほしい。家庭菜園では何を育ててるんだっけ?」

「茄子です」

「その茄子さんに聞いてみろ。私はどうやったら死ねますか?って」

そこで電話をまた切りました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2分後、再び電話がかかってきました。

「どう声、聞こえた?」と尋ねると、「はい」という返事!

「茄子はなんて言ってたの?」と尋ねたら彼女はこう言いました。

 

「今じゃないんじゃない?」

 

茄子、グッジョブ!

本当に聞こえたのかと確認をすると彼女は本当に聞こえたと言うのです。

こういったことが、僕の現実には起きます。

坂口さんにとっての「現実とは?」

現実なんてものは、ない!

 

おわりに

スライドを全く使わない、淀みのないトークは、この後もしばらく続きました。トークの終了後にはバイオアーティストの福原志保さんにも加わっていただき、自由なパネルティスカッションを行いました。