現実科学レクチャーシリーズ

Vol.53 山口征浩さんレクチャー(2024/11/11開催)

デジタルハリウッド大学と現実科学ラボがお届けする「現実科学 レクチャーシリーズ」。

「現実を科学し、ゆたかにする」をテーマに、デジタルハリウッド大学大学院 藤井直敬卓越教授がホストになって各界有識者をお招きし、お話を伺うレクチャー+ディスカッションのトークイベントです。

X(旧Twitter)のハッシュタグは「#現実とは」です。ぜひ、みなさんにとっての「現実」もシェアしてください。

概要

  • 開催日時:2024年11月11日(月)19:30~21:00
  • 参加費用:無料
  • 参加方法: Peatixページより、参加登録ください。お申込み後、Zoomの視聴用リンクをお送りいたします。
    視聴専用のセミナーになりますので、お客様のカメラとマイクはオフのまま、お気軽にご参加いただけます。

ご注意事項

  • 当日の内容によって、最大30分延長する可能性がございます。(ご都合の良い時間に入退出いただけます。)
  • 内容は予期なく変更となる可能性がございます。
  • ウェビナーの内容は録画させていただきます。

プログラム(90分)

  • はじめに
  • 現実科学とは:藤井直敬
  • ゲストトーク:山口征浩氏
  • 対談:山口征浩氏 × 藤井直敬
  • Q&A

登壇者

山口 征浩

2014年Psychic VR Lab(現STYLY)を創業、2016年法人化。空間を身にまとう時代の創造を行う。Apple Vision Pro対応アプリ「STYLY for Vision Pro」を自らもエンジニアとして開発。クリエイター発掘プロジェクト「NEWVIEW」やオープンイノベーションラボ「STYLY Spatial Computing Lab」など、クリエイターや事業者との共創プロジェクトを展開。2024年、世界最大のXRアワード「AWE AUGGIE AWARDS」Best Creator & Authoring Tool部門受賞。

https://x.com/from2001vr

藤井 直敬

株式会社ハコスコ 取締役 CTO
医学博士/XRコンソーシアム代表理事
ブレインテックコンソーシアム代表理事
東北大学医学部特任教授
デジタルハリウッド大学 大学院卓越教授
MIT研究員、理化学研究所脳科学総合研究センター チームリーダーを経て、2014年株式会社ハコスコ創業。主要研究テーマは、現実科学、適応知性、社会的脳機能の解明。

共催

現実科学ラボ
REPORT

※本稿では、当日のトークの一部を再構成してお届けします。

空間レイヤーを作り出すためのプラットフォーム

藤井 本日は山口征浩さんをお招きしています。僕は、山口さんほど自由な人はいないと思っているので今日のレクチャーシリーズは大変楽しみにしていました。

山口 藤井先生も充分自由に生きていらっしゃると思いますよ(笑)。改めまして、株式会社STYLYの代表をしております、山口と申します。STYLYでは、空間レイヤーを作り出すためのプラットフォームを提供しています。そこでスマートフォンや、最近のVision Proのようなスペーシャル(空間)コンピューターを使って、どのように現実の世界にデジタルやバーチャルのものを重ねて、新しいレイヤーを作り出していくのかというサービスを提供している会社です。

特に実際のリアルな場所、土地・建物・都市・商業施設のようなところに配信することに力を入れていて、プラットフォーム上での新しいライフスタイル、新しい価値を自分たちの手で作る、ということまで行なっています。

例えば、渋谷にエアレースの飛行機を飛ばしたり、街中でライブを行ったりですね。物理現実の世界ではなかなか行うことができないような表現や取り組みをXRによって実現することで、世界を新しい表現の場にしたいと思っています。

人類の超能力を解放する

山口 会社のミッションとしては、「人類の超能力を解放する」ということをうたっています。これは今、私たちが扱っているXRもそうですけれど、AIやバイオも含めてですね、前提となるものが大きく変わってくるタイミングに足を踏み入れていると思うんですね。現実とバーチャル、生命と機械、生と死さえも境界線がなくなって、根本から変わっていく。その上で、僕たちの考え方やあり方を考え直す必要があります。

前提を変えるところから自分たちの手で一緒になって行っていくことによって、人々の創造する力、正しく生み出していく力を解放して、未来を作っていくことをミッションとして掲げて事業を行っています。

僕たちはテクノロジーを身にまとって生きている

山口 その中でも、「空間を身にまとう時代を作る」ということを提供価値として定めています。ARやMR、複合現実にしても、今は特別なタイミングで使うことが多いと思うんですね。今後デバイスが小さくなって、日常的にメガネ型のデバイスを利用するようになると、本当に自分の体の一部として、ライフスタイルの中でその機能を利用していくということが絶対起きてくると思います。

そこをプラットフォームとして提供しながら、その上に文化・産業を作ることで実装するエコシステムを通じて実現していく。今でも、僕たちはテクノロジーを身にまとって生きていると思うんですね。ウォークマンが出たことによって街中で音楽を利用することが当たり前になりましたし、コンピュータ/インターネットを身にまとって生活することもそうです。今後は、空間を身にまとって自分自身の周りを拡張して生きていくということが起きてくる。

空間も、都市や施設にクリエイターやアーティストが表現を行うようなパブリックなレイヤーとですね、自分自身が自分の観点でコントロールするパーソナルなレイヤーの、大きくふたつに分かれるのではないかと思います。物理的な現実がひとつあるところに、無数に重なる空間レイヤーを作り出して生きていく。そういう世界がこれからやってくると考えています。

現実世界の制限からイマジネーションを解放したい

藤井 ありがとうございます。今はSTYLYですけれども、サイキックラボを始めた時は全ての人が超能力を身につけるというのがスタートだったじゃないですか。それは今も目指しているところは一致しているんですか?

山口 サイキックラボを立ち上げた時は、XRやVRをどう使ったらいいのかを全く考えずに色々やりだしたんですね。ビジネスをされている方や、アーティストの方々と実験的な取り組みをしている中で、ファッションデザイナーの中里周子さんとお会いしたことがSTYLYを始めたきっかけでした。

中里さんは、自分の作った服を宇宙や海の中で売ったりしたい、飛び込まないと買えないようにしたい、ということを言われたんですね。始めはよく分からなかったんですが、よくよく聞くと、自分の中であふれるイマジネーションが、物理的な重力の制限であったり、金銭的な制限であったり、様々な制限によって実現できないことが色々あると。

XRを使ってそれを実現できるとしたら、彼女もそうですし、多くの人のイマジネーションをもっと広く解放して、爆発させることができるんじゃないかと思ったんですね。それを一人一人と向き合ってやっていくだけではなくて、プラットフォームにして多くの方に使ってもらうことで、一緒に世界を新しく作っていくことができるのではないかと。その考え方は、基本的に立ち上げた時から変わっていません。

知覚の外側と境界線

藤井 こういう話をするときに、「境界線」がキーワードだと思うんですね。テクノロジーがないと、境界線って明瞭にある気がするんだけど、実はそれって感じることができない。結局、僕らは知覚の外側に行くことができないので。でもこう、俯瞰して客観化してみると、多分どこかに自分の知覚とは別の意味での境界線があって、その外側というものが存在している。そのみんなで共有している外側が現実なんだろうと、そういうことだと思うんですね。

山口 中にいるから境界線が見えないという話もそうですし、そもそも違ったディメンションのことって見えないじゃないですか。違ったディメンションに存在する定義の仕方が色々あるんだなと思っていて。

感覚器を通じて僕らが見ている現実世界をテクノロジーによって変えていくという話とは別に、定義の仕方自体を変えて現実を変えていくこともできるのではないかと思っています。例えば、僕がスタートアップで会社を立ち上げても、現実世界で形があるわけじゃないので、物理的に持つとか触るとかはできない。でも、会社法で定められた株主総会という儀式を通して実体化させて、所有するみたいなことができる。

バーチャルでありながら実質的な世界

山口 感覚器で見ることはできないけれど、所有という概念が生まれて、ひとつの現実の中で実体化させることができる。これって、今の社会を進化させた、すごい発明だと思うんですよね。

そのXRの進化と、テクノロジーを通した信用創造も含めた、社会の構造を変えるというふたつが、すごく面白いところだなと。両方とも、実質的に人々がとらえることができるものを増やしたと思っています。

藤井 昨日、奴隷貿易の本を読んだんですよ。それで面白いのが、船主が一人でできるわけじゃないから、誰かが投資するんです。で、海賊にあったり、悪天候で船が沈んだり、病気で奴隷が死んでしまったり、ハイリスクなんですよね。そこに保険がかかっていたりする。また、アメリカで荷物を積んでイギリスで下ろしたときにどうやってお金を確保するかというと、特殊な手形があって。それって、信用取引なんですよね。山口さんがおっしゃった、バーチャルの取引みたいなことが、1500年代からある。

山口 テクノロジーの前からですもんね。通貨もそうですね。

藤井 そうそう。それが、時間と距離が短くなったとか、距離が離れていても短時間に処理できるようになったとか、そういう話なのかなと。すごく面白くて。

AIの意識と自分自身の意識

山口 最近、ChatGPTの喋る機能が進化して、こう、結構ちゃんと喋れるんですよね。人間と区別がつかないような状況になってきているなと思っていて。意識とか、なんていうのかな、魂があるって思わざるを得なくなってくるなと。

藤井 いや、本当にそう思います。チューリングテストとか、もう完全に通りますよね。

山口 AIに意識があるのかもそうですけど、自分の分身として社内のSlackで僕の代わりに返信したり、コメントしたりするのを見ていると、どこまでがAIが考えたもので、どこからが自分自身の意識や考えなのか、みたいなことすらだんだん分からなくなってくるといいますか。

藤井 山口さんのbotがポジティブだから、だんだん山口さんの性格が明るくなってきたって言ってましたよね。

山口 そうなんですよ。VRでアバターが自分の肉体に影響を及ぼすという研究が色々あると思うんですけれども。肉体がなかったとしても、活字情報だけでも、自分自身の実体にすごく影響があるんだなということを感じていて。最近ポジティブになってきているのは良いことだと思ってますけどね。

言語を超えたコミュニケーションのあり方

藤井 LLMで普通に会話ができるようになってから強く思うのは、人って結局、言葉なんだなって。意識とか、人は特別だと感じるのは、やっぱり言語なんだと思うんですよね。

山口 海外で生活される方とか、言葉によって性格や考え方も変わるって言いますよね。

藤井 変わる。英語の自分って、なんかすごいポジティブだね。

山口 AIと人間がコミュニケーションを取る時に、喋る以外の方法も出てくると面白いかもしれないですよね。人間と機械と考えると、今までの人間同士でやっていたようなコミュニケーションが最適なわけじゃないと思うんです。何か全然違う仕方でインプットやアウトプットをすると、自分自身が変わるということはあり得るかもしれません。

藤井 マルチモーダルだったり、ノンバーバルだったりするものも扱えますからね。実は同じ言葉を喋っている人間同士だって、全然違うことを考えていて、実は全然通じていない可能性もあるから。その時も入ってもらったらいいよね。

山口 もっと違った形で人間を理解することもそうかもしれないですし。人間が気づいていないことも機械が気づいてくれて、新しい形が生まれるかもしれないとは思いますね。

今の世代の人間にしかできないこと

山口 僕なんかもう、AIも人工知能もVRもない世界に生まれて。生まれた時から全部存在している人たちとはもう分かり合えないんだろうなと思っていて。

藤井 そうですね。

山口 それはもう絶対無理なんだろうなと自覚して。次の世代は「人間にしかできないことは何もない」って思うようになってくるはずなので、その上で、僕はやっぱり人間にしかできないことはあるんじゃないかと思っているので、それを言い続けて、邪魔して生きていこうと決めてるんですけどね。

藤井 知識においても、クリエイティビティにおいても、多分AIの方が人より多くのディメンションで、色んなパフォーマンスを表現できるから。僕らはやっぱりお釈迦さまの手の上で遊び続けるしかないわけですよね。

山口 出られないといえば出られないんだけど、その世界の中でもう楽しんで、そこが良かったって言い続けるのと。今僕たちがやっていること自体が、少なからず世界を作っていくことにつながっていったらいいなと思っているところではありますね。

豊かさを作るとはどういうことか

山口 AIをお金を稼ぐために使うフェーズから、AIがお金を循環させるというところまではすぐ行くと思うので。そうすると、人間が介在しなくても経済が循環して、人々は豊かな生活ができるようになってくるので。ビジネスを通して新しい社会を新しく作ることに関わることがそもそもなくなっていく可能性も結構あるんじゃないかと思っていて。ビジネスというメソッドを使って、できる限りのことはギリギリまでやった方が良いかなと思っています。

藤井 そういう時にね、山口さんがおっしゃっている豊かさってなんでしょう。おそらく、豊かになる、というのとはちょっと違っていて。それはどこかから収奪してきて、自分だけ豊かになるっていうことなんですね。

山口 そうですね。

藤井 豊かさを作る、というのはそうではなくて、万人に豊かさを行き渡らせることで。それはテクノロジーを使って初めて可能になることだと僕は思っているんです。

山口 現実というものが、今までは自分がコントロールできるものではなかったじゃないですか。「現実を突きつける」とか、「現実を受け止める」という言葉があるように、変えられないので受け入れるしかないものだった。

ところが、色んなものがAIも含めて自動的に作られるようになってくると、一時的には貧富の差が生まれるにしても、長い目で見るとかなり豊かになっていくと思うんです。その時に、自分自身がコントロールできる対象としてそれを受け入れて向き合っていくのが何より大事になってくるんじゃないでしょうか。

藤井 僕は、豊かさってふたつの源泉があると思っていて。ひとつは、無意識と意識の狭間で生まれてくるもの。それは自分の脳から生まれてくるから、無尽蔵なんですよ。もうひとつは、基底現実と人工現実の間から生まれてくるもの。それはデジタルの豊かさだから、電気がある限りこれも無尽蔵に出てくるはずなんです。

これから生まれて育っていく子供たちが感じる豊かさって、僕らが感じる豊かさとは全然違うと思うし、そういう世界で生まれると争う必要がないんですよね。全部無限にあるんだもん。だから、未来は明るいと思うんですよね。

山口 明るいと思いますね。めちゃめちゃ楽しみです。今もなんか、年々楽しくなってますけどね。

AIがもたらす教育の新たな可能性

藤井 山口さんたち、初期の頃から教育に力を入れてるじゃないですか?AIの使い方としても、根気強くて怒らない先生みたいな形で、データサイエンスの基本と応用を身につけるようなプログラムが作れたりすると、役に立つ気がします。

山口 もちろん、人間の先生から学んだ方がいいこともありますけど、AIから学ぶのってめちゃくちゃ効率いいですよね。ベーシックなChatGPTに多少プロンプトで指示を与えるだけでも全部完結するようなレベルで、ものすごく優秀なので。学ぶことのやり方は本当に変わってきていると思います。

藤井 AIのようなものと生きていくということは、いかに自分で自分のモチベーションをコントロールするかなんだと思うんです。今まではモチベーションって外からくるものじゃないですか。AIは常にポジティブにサポートしてくれるから。自分のモチベーションをいかに高めて、何をやったら楽しいかっていう、そこだけなんじゃない?

山口 あと、どうすればモチベーションが上がるかも人それぞれ違うじゃないですか。そういうのも最適化されてくるかもしれない。僕もこの年齢になると、自分のできないことがすごくよくわかってきて。お金やスケジュールの管理ができないとか、電車に乗ると絶対に乗り過ごすとかね。今でもアラームを1日に何十回もかけるとか、テクノロジーを使っていますけど、AIでさらにできることが増えるんじゃないかと思っています。

YouTubeも最近、要約を作ってくれたりするじゃないですか。活字じゃないと記憶に残らない人もいれば、音じゃないと残らない人もいて、それも結構人によってまちまちなので。その人に最適な形で情報を変換するっていうのも、AIの使い方として向いている領域なんだろうなと思ってるんですよね。

藤井 人に頼んだら、1時間に何万円も取られたりしてたんだけど、もう本当にあっという間にできちゃうからね。

山口さんにとっての「#現実とは」

藤井 それでは最後に、いつもの通り山口さんにとっての現実とは、をひと言でお願いします。

山口 私にとっての現実は、自分の手で作り出すことのできる世界だと思っています。先ほども話がありましたけど、自分自身がコントロールして操作できる世界が増えていることもあって、AIが様々な問題を解決する中でも、自分自身が主役・主語となって、社会や世界とどう関わっていくかがすごく大事になってきます。その中で、現実というものを自らの手で作り出して、そういうことのできる世界であると定義することによって、自分自身が幸せに、豊かに世界と関わっていけるじゃないかと思っています。

藤井 ありがとうございます。やっぱり、作る人の言葉はみんな共通ですね。

(テキスト:ヨシムラマリ)

本レクチャーのアーカイブはReality Science LabのYouTubeチャンネルにてご視聴いただけます。