Vol.16:酉島伝法先生レクチャー(2021/9/24 開催)

現実科学ラボレクチャーシリーズ vol.16

現実科学ラボがお届けする「現実科学ラボレクチャーシリーズ」。
「現実を科学し、ゆたかにする」をテーマに、各界有識者をお招きして、脳科学者 藤井直敬がホストになってお話をお伺いする、レクチャー+ディスカッションのトークイベントです。

2021年9月24日、第16回となる今回は、作家・イラストレーターの酉島伝法さんをお迎えしました。イベントの後半のパネルディスカッションでは、特別ゲストとして、アニメーション作家・イラストレーターの北村 みなみさんをお迎えしました。本記事では、当日の簡単なレポートをお届けします。

当日のオンラインホワイトボード

登壇者

酉島伝法

酉島 伝法 氏

作家、イラストレーター
1970年、大阪府生まれ。
2011年、「皆勤の徒」で第2回創元SF短編賞を受賞し、
13年刊行の作品集『皆勤の徒』で第34回日本SF大賞を受賞。
19年刊行の第一長編『宿借りの星』 で第40回日本SF大賞を受賞。
他の著書に『オクトローグ 酉島伝法作品集成』『るん(笑)』がある。

北村 みなみ

北村 みなみ 氏

アニメーション作家、イラストレーター
静岡県戸田村にて海と山に囲まれ育つ。 現在はフリーのアニメーション作家・ イラストレーターとして多岐にわたり活動中。
2021年6月、WIREDの漫画連載をまとめた単行本「 グッバイ・ハロー・ワールド」(rn press)を刊行。
同年7月、イラスト作品集「宇宙( ユニヴァース)」(グラフィック社)を刊行。

藤井直敬

藤井直敬

医学博士/脳科学者
株式会社ハコスコ 代表取締役
東北大学特任教授/デジタルハリウッド大学大学院 教授
一般社団法人 XRコンソーシアム代表理事
東北大学医学部卒業、同大大学院にて博士号取得。1998年よりマサチューセッツ工科大学(MIT)McGovern Institute 研究員。2004年より理化学研究所脳科学総合研究センター所属、適応知性研究チームリーダー他。2014年に株式会社ハコスコを創業。
主要研究テーマは、BMI、現実科学、社会的脳機能の解明など。

共催

デジタルハリウッド大学

フィクションの中の登場人物が感じている「現実」を翻訳している

酉島さんは冒頭で、「自分はSF作家に分類されているが、SF作品を書いているという実感が薄い」と言います。それは、小説の内容が未来であれ異世界であれ、「そこに生きている人々の現実を描き出そうとしているから」だそうです。

例えば、大昔の人にとってはスマホやPCは「SFそのもの」です。他方、現代の私たちはそうしたテクノロジーについて、ろくに考えることもなく自明のものとして使っています。

これと全く同じように、未来の世界で自明として扱われている(現在からするとフィクションでしかないような)世界を、なるべく自明のまま描き出すこと。それが酉島さんの行っている作業なのです。現在の私たちからすれば、そうした描写は異質で読みにくいものになりますが、それもまた一興であると酉島さんは言います。

現実の出来事と物語のリアリティにはずれがある

酉島さんは、物語のリアリティについて、小説家のガブリエル・ガルシア=マルケスが語ったとされる次のエピソードを引き合いに出しました。

「象が空を飛んでいる」といっても人は信じない。しかし「425頭の象が空を飛んでいる」というと信じる人が増える可能性が高い。そういうディティールをつけることで、もっともらしさが上がる。

酉島さんは非現実的な物語を描くとき、それが読者にデタラメだと思われないように、綿密な設定を練るそうです。(ただし、説明的な記述はほとんどせず、それを自明のものとして描くスタンスは変えないとのことですが。)

そうした流れの中で、『皆勤の徒』以降の制作ではスケッチも併用しているとのこと。酉島さんにとって、挿絵は映画の背景美術的なもの、造語は大道具や小道具、特殊メイクに相当するのなのだそう。

さらに酉島さんは「漢字が表意文字であることを考えると、文章には小さな挿絵がたくさん並んでいるようなものだ」と語ります。漢字の使い方に意匠を凝らすことで、小説に立ち上がる世界の雰囲気をある程度コーディネートすることができるのです。たとえば、『ブレードランナー』のレプリカントは、原作『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』では「アンドロイド」と呼ばれており、同じものを指していてもだいぶ印象が違います。

造語の作り方

たとえば身の回りの言葉で、「酸素」や「個人」もある意味では造語。どちらも、当時日本にはなかった概念を海外から輸入する際に、新たに生まれた言葉です。

漢字によって世界の雰囲気を作り出す手法の中で、酉島さんに取って「造語」は重要な位置を占めています。作品に相応しい造語が出てこないと「物語がうまく進んでいかない」のだそうです。

うまい造語が出来た時、酉島さんは「嬉しい」「やった」という達成感を超えて、「その世界と繋がった感じ」がするのだと語ります。

酉島さんにとって、現実とは

それぞれが現実だと感じている何か。