現実科学レクチャーシリーズ

Vol.17:長沼毅先生レクチャー(2021/10/20 開催)

現実科学ラボ・レクチャーシリーズ vol.17

現実科学ラボがお届けする「現実科学ラボレクチャーシリーズ」。
「現実を科学し、ゆたかにする」をテーマに、各界有識者をお招きして、脳科学者 藤井直敬がホストになってお話をお伺いする、レクチャー+ディスカッションのトークイベントです。

第17回となる今回は、2021年10月20日、広島大学大学院統合生命科学研究科教授の長沼毅さんをお迎えしました。イベントの後半のパネルディスカッションでは、特別ゲストとして、東京大学大学院教授の池上高志さんをお迎えしました。本記事では、当日の簡単なレポートをお届けします。

https://reality-science017.peatix.com/

プログラム(90分)

  • はじめに
  • 現実科学とは:藤井直敬
  • ゲストトーク:長沼毅氏
  • ディスカッション:長沼毅氏 × 池上高志氏 × 藤井直敬
  • Q&A

当日のオンラインホワイトボード

登壇者

長沼毅

長沼 毅 氏

広島大学大学院統合生命科学研究科教授
1961年、人類が初めて宇宙へ飛んだ日に生まれる。
1989年、筑波大学大学院生物科学研究科修了。
海洋科学技術センター(現・海洋研究開発機構)研究員、米国カリフ ォルニア大学サンタバーバラ校海洋科学研究所客員研究員を経て、 1994年広島大学大学院生物圏科学研究科助教授。現在、 同大学大学院統合生命科学研究科教授。
専門は深海、地底、南極、北極、砂漠などの極限環境の生物学、生物海洋学、微生物生態学。第52次南極観測隊員。宇宙飛行士候補者選抜試験で二次選考まで残った経験をもつ。
テレビ・雑誌・ラジオ等に数多く登場し、「科学」の面白さを広めている。

池上 高志 氏

東京大学大学院工学系研究科総合システム科学専攻 教授
1989年、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。コンピュータシミュレーション、化学実験、ロボットなどを用いて、可能な限りの生命体を構築することを目的とした、複雑系と人工生命の研究を行っている。2005年よりアート活動も開始。Filmachine』(with 渋谷慶一郎、YCAM、2006年)、『Mind Time Machine』(YCAM、2010年)、『Offloaded Agency』(Barbican、2019年)など。著書に『動きが生命を作る』(2007年)、『人間と機械のあいだ』(2016年)、「作って動かすALIFE」(O’reilly Japan)がある。

藤井直敬

藤井直敬

医学博士/脳科学者
株式会社ハコスコ 代表取締役
東北大学特任教授/デジタルハリウッド大学大学院 教授
一般社団法人 XRコンソーシアム代表理事
東北大学医学部卒業、同大大学院にて博士号取得。1998年よりマサチューセッツ工科大学(MIT)McGovern Institute 研究員。2004年より理化学研究所脳科学総合研究センター所属、適応知性研究チームリーダー他。2014年に株式会社ハコスコを創業。
主要研究テーマは、BMI、現実科学、社会的脳機能の解明など。

共催

デジタルハリウッド大学

生物が見ている世界

ココリコ田中×長沼毅presents 図解 生き物が見ている世界

長沼さんはまず、生物の目に注目し、それぞれの生物にとって世界はどのように見えているのかについて話し始めました。

私たち人間の目では、眼球に備わった3種類の錐体細胞によって赤・緑・青を、桿体細胞によって明暗(光の強弱)が感知されていると言われています。ただし、光の三原色と呼ばれる赤・緑・青は、それぞれ異なる感度で感知されているのだとか。

では、他の生き物はどうでしょうか。例えばゼブラフィッシュは、色を感じるための錐体細胞が、紫色の波長に対して一種類、青色に対して一種類、緑色に対して四種類、赤色に対して二種類存在しているそうです。大きく分けると、四原色の世界で生きていることになります。眼一つとっても、生き物によって世界の感じ方が全く違うことが分かります。

コウモリであるとはどういうことか

四原色の世界に生きている生き物が、「実際のところ」どのように世界を知覚しているのか、三原色の世界に生きている私たちには知りようもありません。二原色・一原色の世界に生きている人の世界は、例えば図のようにシミュレーションすることができるかもしれません。

同じように長沼さんは、ミツバチの複眼による世界の見え方についてのシミュレーション結果を紹介しました。

図のように、花から少し離れると、ディティールを捉えることが難しいとされています。が、「実際のところ」、複眼の世界に生きるミツバチが、複眼から入力された視覚刺激を脳の中でどのように処理し、その結果彼らにどのような世界が立ち上がっているのか、その本当のところは知りようもないのです。

脳内変換というフィルター越しの「現実」

例えば人の網膜には、世界から送られてきた光が上下・左右反転して像が結ばれます。しかし私たちは、その上下・左右反転した像を脳内で元に戻す「変換」しているので、あたかも上下・左右反転していない世界が眼に映っているかのように感じます。

私たちは、感覚器官に入力された刺激を、なんの処理もせず、全くそのまま認識しているわけではありません。錯視はそのことを教えてくれます。実際は(入力されている刺激は)動いていないのに、動いているように感じる。実際は(入力されている刺激は)変わっていないのに、突然反対周りになったかのように感じる。

私たちは、脳が勝手に「変換」した後の世界を見て、それを「現実」と呼んでいるのです。

長沼さんにとって、現実とは

自分と、自分の周りの世界が対峙するところ=接点。プレートテクトニクスのように、時に衝突し、時に離れていき、時に横ずれを起こす、頻繁に変わる世界との関わり方。