【イベントレポ】2021/2/22 レクチャーシリーズ Vol.9:福原志保先生

現実科学ラボでは、各分野で活躍している専門家とともに「現実とは?」について考えていくレクチャーシリーズを2020年6月より毎月開催しています。

第9回となる今回は、2021年2月22日、アーティストの福原志保さんをお迎えしました。後半のパネルディスカッションでは、スペシャルゲストとして、メディアアーティストの八谷和彦さんにも議論に加わっていただきました。

本記事では、当日の簡単なレポートをお届けします。

https://reality-science009.peatix.com/?lang=ja

現実科学とは

現実科学ラボ・レクチャーシリーズは、デジタルハリウッド大学さまの提供でお届けしています。

 

ゲスト紹介

福原志保氏
2001年、セントラル・セント・マーチンズのファインアート学士過程を、2003年ロイヤル・カレッジ・オブ・アートのインタラクション・デザイン修士課程を修了。 同年に、ゲオアク・トレメルとともに英国科学技術芸術基金のパイオニア・アワードを受賞し、バイオプレゼンス社をロンドンで設立。 その後、2007年より活動拠点を日本に移し、アーティスティック・リサーチ・フレームワークBCLを結成。 また2014年より、テクノロジーと工芸、身体性と審美性と物質性の関係が、我々の意識にクリティカルに介することに注目し、生活をとりまくあらゆるモノに知能を与えるための新技術とプラットフォームの開発に従事している。

八谷和彦氏
メディア・アーティスト.佐賀市出身.1966年4月18日(発明の日)生まれ.九州芸術工科大学(現九州大学芸術工学部)画像設計学科卒業.個人TV放送局ユニット「SMTV」,コンサルティング会社勤務を経て現在に至る.作品には《視聴覚交換マシン》や《見ることは信じること》などの特殊コミュニケーション・ツール・シリーズ,ジェット・エンジン付きスケート・ボード《エアボード》や《オープンスカイ》など機能をもった装置が多い.メールソフト《ポストペット》の開発者でもあり,自身が取締役を務めるポストペット関連のソフトウェア開発を行なう会社「ペットワークス」では,現在Twitterクライアント「PostPetNow」を開発中.

アートは…気づきを与える

COVID-19が世界的猛威を振るった2020年。様々な未来があり得る世界で、私たちは2019年には想像もしなかった「とんでもない未来」に行き着いてしまったようです。そのような不確定で不安定な現在、分からないことで溢れかえっている世界に、どのような「答え」を見出していけば良いのでしょうか。

福原さんは、アートの持つ性質を以下の三点のようにまとめました。

  • 議論のツール:議論を促し、様々な意見を生み出す。多様な問いかけで沢山の答えを生み出す。
  • 社会的インパクトについて探求する:バイオテクノロジーやインターネットのように、指数関数的に発展するテクノロジーによる社会へのインパクトについて考察する。
  • 気づきを与える:技術発展における倫理問題などについて「変わった方法」で気づきを与える。

これから起こり得る様々な未来について、アートは問いかけ、多様な答えを生み出し、気づきを与える力を持っています。福原さは、がこれまで行ってきた「問いかけ」の活動を通じて考えてきた「現実」について紹介しました。

Common Flowers Trilogy / White Out

BCL「Common Flowers / Flower Commons」

サントリーフラワーズ社が遺伝子組み換えによって作り出し、販売を始めた青いカーネーション。この花に植物細胞培養で根を与え、自然界で自生させるプロジェクトが《Common Flowers / Flower Commons》です。さらに、その人工的に作られた青いカーネーションに再び遺伝子組み換えを施し、人工的に白へと戻す試み《Common Flowers / White Out》が続きます。

遺伝子組み換えによって新たに作られた生命を一企業の商品として占有していいのか、その「命」は誰の所有物なのか。青いカーネーションを自然に咲く「普通の花」に戻すことを通じて、福原さんはそのような問いかけを行いました。

Ghost in the Cell:細胞の中の幽霊

BCL + Semitransparent Design 《Ghost in the Cell》

生と死、生きているとは、死んでいるとは何か。心臓が動いていれば、ものを食べていれば、子孫を作れば、成長すれば、それは生きていると言えるのか。

「Ghost in the Cell:細胞の中の幽霊」は、そうした問いに基づいて、VOCALOIDのキャラクターとして知られる「初音ミク」に遺伝子と細胞を与えるプロジェクトです。

「hmDNA」と呼ばれたこのプロジェクトは、インターネット上でユーザー同士が協力しながら、初音ミクの外見的特徴(「緑の目」や「明るい肌の色」など)を記したDNA配列データを作り、それを組み込まれたiPS細胞から心筋細胞を作り出すというもの。

2015年から2016年にかけて行われた展示では、全国各地から多くのファンがこの「初音ミク」のためにはるばる美術館を訪れ、中には何時間もこの細胞の前で立ち尽くす人もいたそうです。

Biopresence

BCL「Biopresence」

故人の皮膚から採取したDNAを木の遺伝子の中に保存することで、成長したその木が「生きた墓標」に変わる「Biopresence」。これまで、この写真のように木を抱く人はTree Hugger(木を抱く人)と呼ばれ、その行為は環境保護への意志を表すとされてきました。BiopresenceはTree Huggerに「死んだ祖母を偲ぶ人」という新しい意味を与えるかもしれません。

木の隅々の細胞まで故人の遺伝子が行き渡ることで、当然その木になるリンゴの実も故人の遺伝子を持つことになります。あなたは死んだ祖母の遺伝子を保持しているリンゴを食べる時、何を思いますか?ヨーロッパではこのリンゴを食べたくないと答える人が多いそうです。

BLP-2000D:ブラックリストプリンター

パンデミックを起こす危険性があるとしてブラックリストに登録されているウィルスのDNA配列(ゲノム解析の結果がオンラインで公開されている)をプリントアウトしていく作品。写真後方の注射器に装填されたアミノ酸がインクとなり、紙にウィルスの設計図を刻み続けていく。

紙自体はウィルスを伝染させることがない一方で、どこか危険な香りを感じさせます。実際、悪意のある人がその気になれば、この紙の印字をもとにウィルスを復元することができますが、そもそも印刷されたデータはオンラインで公開されているものであり……。現在のバイオテクノロジーに関する倫理観を問う作品です。

More Questions More Explorations

DIY(Do-It-Yourself)バイオをやり続けてきた福原さんは、アーティストの孤独に向き合い続けてきました。そうした活動の中で始めたのが、他者との共同を掲げたDIWO(Do-It-With-Others)。

多くの人を巻き込みながら、福原さんはアーティストとして作品を通じて問い続けてきました。さらに、問うて終わるのではなく、その問いに対して議論をすることが、アートにおいて何よりも大事だと福原さんは強調します。

問いを投げ、議論を巻き起こし、多くの人がそれぞれの多様な答えを出し合う「探求(Exploration)」を推進することで、みんなの箱を開けていく。Inside Out of Box。福原さんのそうした活動に加わり、多様な問いに、多様な議論と、多様な答えを出し続けていきたいと思わせる講演でした。

福原さんにとって「現実とは」

湧き上がってくる何か。

福原さんはそのように語り、イベントを締めくくりました。