【イベントレポ】2021/1/21 レクチャーシリーズ Vol.8:暦本純一先生

現実科学ラボでは、各分野で活躍している専門家とともに「現実とは?」について考えていくレクチャーシリーズを2020年6月より毎月開催しています。

第8回となる今回は、2021年1月21日、研究者の暦本純一さんをお迎えしました。後半のパネルディスカッションでは、スペシャルゲストとして、ユカイ工学の青木俊介さんにも議論に加わっていただきました。

本記事では、当日の簡単なレポートをお届けします。

https://reality-science008.peatix.com/?lang=ja

現実科学とは

スポンサー

現実科学ラボ・レクチャーシリーズは、デジタルハリウッド大学さまの提供でお届けしています。

暦本純一さん

 

 

 

 

 

 

 

情報科学者。東京大学情報学環教授、ソニーコンピュータサイエンス研究所フェロー・副所長、ソニーCSL京都ディレクター。世界初のモバイルAR(拡張現実)システムNaviCamを1990年代に試作、マルチタッチの基礎研究を世界に先駆けて行うなど常に時代を先導する研究活動を展開している。現在は、Human Augmentaion(人間拡張)をテーマに、人間とAIの能力がネットワークを越えて相互接続・進化していく未来社会ビジョン Internet of Abilities (IoA)の具現化を行っている。iF Interaction Design Award(2000)、日本文化デザイン賞(2003)、日経BP技術賞(2008), 日本ソフトウェア科学会基礎科学賞(2014), ACM UIST Lasting Impact Award(2014, 2017)などを受賞。2007年にACM SIGCHI Academyに選出される。
近著に「妄想する頭 思考する手」(祥伝社)。

青木俊介さん

 

 

 

 

 

 


東京大学工学部在学中に、チームラボ株式会社を設立、CTOに就任。 その後、ピクシブ株式会社のCTOを務めたのち、ロボティクスベンチャー「ユカイ工学」を設立。「ロボティクスで世界をユカイに」というビジョンのもと家庭向けロボット製品を数多く手がける。 2014年、家族をつなぐコミュニケーションロボット「BOCCO」を発表。2017年、しっぽのついたクッション型セラピーロボット「Qoobo」を発表。 2015 年よりグッドデザイン賞審査委員。

人間拡張 / Human Augmentation

 

暦本さんは、人間と一体化して能力を拡張させるテクノロジーを開拓する「ヒューマンオーグメンテーション(Human Augmentation)」というコンセプトを提唱し、研究を進めています。

 

 

 

 

 

 

暦本さんはまず、人間拡張研究の事例を紹介しました。

Naoki Kimura, Michinari Kono, Jun Rekimoto. SottoVoce: An Ultrasound Imaging-Based Silent Speech Interaction Using Deep Neural Networks, ACM CHI 2019

超音波エコーで口内の動きをセンシングし、その動きを機械学習で推定することで、声を発することなくコンピュータに言いたいことを伝えることができる「SottoVoce」

Sidney Fels and Geoffrey Hinton. 1995. Glove-TalkII: an adaptive gesture-to-formant interface. In Proceedings of the SIGCHI Conference on Human Factors in Computing Systems (CHI ’95).

手を使って「しゃべる」ことができる「Glove Talk II」

さながら映画「マトリックス」で能力を「ダウンロード」するトリニティーのように、人は既にコンピュータと一体となりつつあります。AirPodsはそのポピュラーな一例。AirPodsのマイクは骨伝導音声を使ってノイズ除去をしているため、いわば「人間と一体化しないと意味がないデバイス」なのです。人とコンピュータが融合された状態を、暦本さんは脳の外側に電脳皮質(Cybercorttex)が形成されたようなものと例えます。

 

 

 

 

 

 

 

さらに、このようにテクノロジーが人間を拡張すると同時に、人間がテクノロジーに「合わせる」ようになる場合も。

 

 

 

 

 

 

 

SottoVoceを練習する暦本さん。コンピュータが人に情報を提示し、人はその情報をもとに行動を決定する。近年では、コンピュータなしでは成立しないような行動もある。この時コンピュータは、既に人間の身体の一部になっていると捉えることもできるのです。

現実を編集する

 

 

 

 

 

 

 

https://dl.acm.org/doi/10.1145/2832932.2832950

Kei Nitta, Keita Higuchi, Yuichi Tadokoro, and Jun Rekimoto. 2015. Shepherd pass: ability tuning for augmented sports using ball-shaped quadcopter. In Proceedings of the 12th International Conference on Advances in Computer Entertainment Technology (ACE ’15). 

暦本さんの話は、人間拡張から現実の編集へ移りました。こちらはドローンを用いてボールに働く見かけの物理法則を変化させることができる「Shepherd pass」。コンセプト検証の段階ではあるものの、例えば初心者にはゆっくり、上級者には高速で飛んでいくボールや、絶対にキャッチされないボールを実現することができます。

Xinlei Zhang, Takashi Miyaki, and Jun Rekimoto. 2020. WithYou: Automated Adaptive Speech Tutoring With Context-Dependent Speech Recognition. In Proceedings of the 2020 CHI Conference on Human Factors in Computing Systems (CHI ’20).

これは、喋り手に合わせてスピードを自動で変えてくれるシャドウイング(英語音声に追従して音読するトレーニング)ソフトウェア「WithYou」。WithYouは、練習者の技能に合わせた「現実歪曲空間」を実現していると捉えることができます。コンピュータを通じた時間的体験の操作は、いわば現実を編集する技術なのです。

Virtual Reality

暦本さんは、現在普及しつつあるヘッドセットを中心とした視聴覚のVirtual Reality技術で実現できるのは、あくまでもお約束としての「現実」であると指摘します。本来の「自然な」現実はもっと豊かな情報を持っている。

例えば5Gが登場した際に、8K画質で鮎の映像を送れたとしても、味や食感が伝わってこない限りは料理体験としては不十分です。リアルの良さ、デジタルの良さ、それぞれをきちんと理解し、目的に応じて両者をうまく使い分けていく必要があります。

 

 

 

 

 

 

 

そういった指摘の一方で、「自然」とは一体何なのでしょうか?その問の端緒になるとして挙げられたのが、LURRA° Kyotoで提供された鮎料理。料理人による極めて緻密な作り込みがなされていた鮎は「リアル(天然)だけれど非日常的」だったと暦本さんは語ります。

私たちの現実には、例えば長時間の満員電車で通勤したオフィスで電子メールを作成するなど、つらいRealを経て実質的にCyberな業務を行っていると見ることもできます。このようなRealとCyberが変に絡み合っている状況に対して、暦本さんは「CyberでできることをわざわざRealでやる必要はなく、その逆もまた然り」と述べました。

暦本さんにとっての「現実とは」

「究極的には自分で定義できるもの」

そう言って暦本さんは講演を締めくくりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

講演終了後、青木さんを迎えて3人でのパネルディスカッションが行われました。