現実科学レクチャーシリーズ

Vol.47 三浦 亜美さんレクチャー(2024/5/31開催)

デジタルハリウッド大学と現実科学ラボがお届けする「現実科学 レクチャーシリーズ」。

「現実を科学し、ゆたかにする」をテーマに、デジタルハリウッド大学大学院 藤井直敬卓越教授がホストになって各界有識者をお招きし、お話を伺うレクチャー+ディスカッションのトークイベントです。

X(旧Twitter)のハッシュタグは「#現実とは」です。ぜひ、みなさんにとっての「現実」もシェアしてください。

概要

  • 開催日時:2024年5月31日(金)19:30~21:00
  • 参加費用:無料
  • 参加方法: Peatixページより、参加登録ください。お申込み後、Zoomの視聴用リンクをお送りいたします。
    視聴専用のセミナーになりますので、お客様のカメラとマイクはオフのまま、お気軽にご参加いただけます。

ご注意事項

  • 当日の内容によって、最大30分延長する可能性がございます。(ご都合の良い時間に入退出いただけます。)
  • 内容は予期なく変更となる可能性がございます。
  • ウェビナーの内容は録画させていただきます。

プログラム(90分)

  • はじめに
  • 現実科学とは:藤井直敬
  • ゲストトーク:三浦 亜美氏
  • 対談:三浦 亜美氏 × 藤井直敬
  • Q&A

登壇者

三浦 亜美

学生時代に教育関連領域で起業。事業譲渡後にバックパッカーとして世界各国の文化・芸術に触れる。帰国後、ベンチャーキャピタルにて、外資系投資企業の日本進出支援に従事。日本の伝統文化における匠のワザや研究者の志を社会実装することを目的に、2013年にima創業。ビジネス、テクノロジー、アートを用いて行政を含めた新たな関係性を創造することで、伝統や新技術を次世代に継承する仕組みづくりを行っている。行政関連アドバイザー、大学教員、アーティストしても活動。

https://www.i-ma.jp/

藤井 直敬

株式会社ハコスコ 取締役 CTO
医学博士/XRコンソーシアム代表理事
ブレインテックコンソーシアム代表理事
東北大学医学部特任教授
デジタルハリウッド大学 大学院卓越教授
MIT研究員、理化学研究所脳科学総合研究センター チームリーダーを経て、2014年株式会社ハコスコ創業。主要研究テーマは、現実科学、適応知性、社会的脳機能の解明。

共催

現実科学ラボ
REPORT

※本稿では、当日のトークの一部を再構成してお届けします。

自分の現実を定義し、世界を構築する

藤井 今日のゲストは三浦亜美さんです。三浦さんはデジタルハリウッドでも教えていらっしゃるので、僕の同僚でもありますが、今まで現実に関してお話ししたことはなかったので、とても楽しみにしています。

三浦 こちらこそ、よろしくお願いいたします。

藤井 最初に、現実科学ってなんだ?といういつもの説明をします。僕らは普段、すべての人に共通の基底現実があるという認識、科学的な世界観の中で生きていて、その前提で社会も出来上がっています。一方、私たちの生身の人間の脳は多分そういうふうにはなっていません。無意識があって、物理的には存在しないんだけど、脳が感じるようなもの、空想であるとか、幻覚と呼ばれるようなものが物理的な世界に重なっている。僕はそれを、神話的な世界観と呼んでいます。

科学的な世界観と神話的な世界は相容れないんだけれども、ここにさらに新しいテクノロジーが出てきて、人工現実が物理的な現実と区別がつかない形で紛れ込んでいる。それが、現実科学的な世界観です。そういう世界の中で、私たちはすでに生き始めている。

この構造を理解しないと、なんだかやられっぱなしになってしまう、というのが僕の懸念なわけです。無意識も意識も、人工現実も、ブレインマシンインターフェイスやXR技術などのテクノロジーによって、すべて介入が可能になっている。そうなった時に、どういう社会を作るのか、どのように人をより幸せに、豊かにしていくのかを、僕らは考え続けなければいけない。

そのために一番大事なのは、自分の現実を定義するところから始めて、すべての人が異なる現実を生きている、と理解することです。そこから世界を構築することによって、豊かさが生まれるんじゃないか、と僕は考えています。ということで、ここからは三浦さんにお渡ししたいと思います。

ビジネスとテクノロジーの観点から「あいま」をつなぐ

三浦 よろしくお願いします。私は今、株式会社ima(あいま)という会社をやっています。「今」というこの瞬間を大事にしている人たちと仕事がしたい、そこから色んなものを紡ぎ出したい、という欲望がすごくてですね。日々、そういったことを大事にしています。

それをやっていく中で、大事にしている言葉が「起藝」や「文化工学」という言葉です。これは私が勝手につくった造語なんですけれども。やっぱり、誰に頼まれたわけでもないのに、これをやらずにはいられない、社会に問わずにはいられない、みたいな投げかけがあって。それに対して、チームで仕組みづくりをして解いていく、ということをやっています。

要素を分解して、今を感じている人たちの中でどういうことが起きているの?といった中で、ビジネスの観点と最新テクノロジーの観点から「あいま」をつないでいく。具体的には、プロデュースをしたり、コンサルティングをしたり、といったことですね。

人呼んで「道連れ型ファーストペンギン」

三浦 基本的に、今を感じている人と出会うと、魂に火をつけられてしまうんですよ。最初は自分の魂に火がついたところから始まっているはずなんだけど、それが私だけではなく、みんなが「これが必要だよね」「やりたいね」って思ってくれると、それがどんどん広がっていって、気がついたらもう大炎上。

そんなふうに火をつけがちなので、つけられたあだ名が「道連れ型ファーストペンギン」です(笑)。一緒に色んな新しいことをやってみよう!と。大丈夫だよ、過去にこんなことがあったのの現代版だよ、というようにストーリーを作って、気がついたらみんなで手をつないでいるという。この「あいま」をつなぐところでやってきたことを、いくつかご紹介したいと思います。

霞ヶ浦のシラウオのブランド化

三浦 例えば、霞ヶ浦のシラウオですね。この、透明なお魚。昔は江戸前寿司でもシラウオの握りがあって、今でも東京が大消費地です。でもなぜか、東京で出回っているシラウオは青森や島根で獲れたもの。なぜ、車で1時間の霞ヶ浦から持ってこないの?というと、それは豊洲の市場に入ってこないから。霞ヶ浦に市場がないからだったんですね。

であれば、未来の市場っていうのは構造がどんどん変わってきそうだから、そこに漁師さんの目利きという匠の技を取り入れて、新しい仕組みをつくっていこうよ、と。そうしましたら、漁師さんたちがお手伝いするよ、市もお手伝いするよ、とうことでムーブメントが起きまして。

今では、ミシュランで星もとられているような、東京の名だたるレストランでもメニュー化されています。価格も道の駅で売っていたものの5倍以上の値段がつけられるようになり、「シラウオ漁を息子に継がせてもいいかな」と、若手が乗ってくるような動きも始まっています。

トヨタ社と「動くシート」をプロデュース

三浦 今日もちょうど行ってきたんですけれど、トヨタさんではキネティックシートという、動くシートの開発をお手伝いしています。これ、世の中に実装したら面白いんじゃない?と研究者や技術者の方と盛り上がりましてですね。具現化していくための仲間をちょっとずつちょっとずつ、一生懸命探しまして。この人たちじゃなきゃダメだ!というところまで行き着いた結果、すごく嬉しい反響をいただいています。

動画で少しご紹介しますけれども。足が動かない方で、体幹に不安があるんだけれども、シートが動いて体をちゃんと支えてくれるので、カーブでも安定して、リラックスした状態で運転できる、と。走れば走るほど楽しかった、とおっしゃっていただいてます。

これ、台本なしなんですね。でも、短い時間で実際に乗ってみて、これだけ言っていただけるのはすごいなと思っていて。こんな研究結果がありますよ、から一気に絶対こうあった方がいいじゃん!ってなるといいますか。これが色んな方の目に留まりまして、じゃあ民生化するためにはどうすればいいのか、販売を実現するにはどうすればいいのか、っていうところまで議論がどんどん進んでいます。

人生の師匠と出会う旅

三浦 それから、また話が飛ぶんですけれども。コロナ禍にガラガラの京都を歩いている時に、旅行ってなんだろう?と考えるタイミングがありまして。その時に、自分で自分を省みる、反省する、自分の当たり前だってパターン化されたものを一回やめてみる、それが旅行だったりするのかな、と思ったんですね。

インスタグラムでいいねをもらうためではなく、自分の中で師匠となりそうなものに出会うというか。自分自身、バックパッカーをして40ヶ国ぐらいに行った中で、日本の何百年も同じ場所にあるような、名前を継いでいくようなものってかなり特殊だと思うんです。何か、そこが色んな人のセーブポイントになっているようで、ロマンを感じるといいますか。

そんなところに行って、人生の師匠ができると面白いのではないかと。坐禅をやって、身体性を取り戻したと感じた後に、ろくろを回して器を作って、ぜんぜん上手くいかない!みたいな体験をして。そこで反省をして、お茶を作って飲んで、あれ?何か良い塩梅じゃない?と感じる旅を作ったりですね。

時代や文化が変わっても、人のやることは変わらない?

三浦 ここからは少し、「現実とは」というところのお話です。先日、花園大学の芳澤勝弘先生にお会いしまして、その先生の講演で紹介されていた白隠の絵なんですが。

壁に「落書きしちゃいけないよ」って書かれていて、そこに子供が「落書きしちゃいけないよ」って書きかけている。これ、バンクシーも同じような絵を描いているんですね。何百年と時差があるのに、こういうことが起きる、と。

この絵もそうで。右上の人が筆で「誰々参上!」って、本当はダメなんだけど、書いています。今も、観光地なんかにいくと相合傘が書いてあったり、誰々参上!って書いてあったりしますよね。これが非常に面白いなと思いまして。人間っていうのは、色んな場所だったり、時間だったり、宗教だったり、言語だったり、その時にこうだよねって伝えやすい方法で、こうあろうぜ!ってことを起藝しまくっているのではないかと思ったんです。

「輝き」を常に探していたい

三浦 何か常に、この物語のはじまりとなる「輝き」を探していたいなというのが、私の中で現実を探していく時に、現実を感じている時に、大事にしていることなんじゃないかと思います。

色んな研究者の方や、色んなことをやっている方にお会いした時に、何かこう、すでにその方々の中に答えはあるなと思っていて。その玉石混交の色んな石の中から、この部分はこういうストーリーならいけるんじゃないの?っていうふうに、輝きを探るのが私にとって大事で。

その中に「志」というか、染まらない何か、揺るぎない何かがあって、それに対しては愛を持って接していきたいなと。この突き動かされている何かを私も見たい!一緒に見ましょう!という形で近づいていく、ということをやらせてもらっています。

カオスと秩序を行ったり来たり

三浦 それでもやっぱり、言語化するとちょっとずつズレていってしまうので。どういう物語なのか?っていうことを、一緒に掘って掘って掘りまくる。カオスでもあり、秩序でもあり、というところを行ったり来たりする。そこが、本当に面白いなぁと思っています。

ああ、つながっている!つながっていると思ったらやっぱり違う!でもこっちに派生している!みたいな。突然、数学が出てきたり、物理や禅宗の教えが出てきたり、絵画が出てきたりと、あっちこっちへ飛んでいく。なので、この現実をつなぐのがいちばん面白くて。今っていうところと、あいまをつなぎたい。そこを深掘りしていくと、この現実っていうものにちょこっとだけ、色んなものがふわっと浮いてくる気がしています。

自分の当たり前を変える旅

藤井 ありがとうございます。多分、輝きを見つけるというのを仕事の中心にすえていると思うんですけど、今聞いていて、僕の輝きも見つけてくれないかな、って思ったの。どうしたらいいんだろう?

三浦 旅にでも行ってみます?一緒に。

藤井 旅ね。なんかモロッコで大変な目に遭ってたよね?

三浦 あ、そうそう。まさにね、今それを思ってたんです。私、年に1回は超絶ウィアードな場所に行こうと思っていて。ウェスタンじゃない、インダストリアルでもない、デモクラティックでもない。リッチじゃない人もいて、エデュケーテッドの軸も違う感じの人がいるところ。人類としては絶対そっちの方が多いじゃないですか。で、その人たちがどう感じているのかと。当たり前を変えたいっていうのが、子供の頃からずっとあるんですよね。

藤井 自分の当たり前を変えたい?

三浦 そうそう。世の中の当たり前も変えたいんですけど、それは仕事でやっていきたいので。自分の当たり前もたまに変えたくなるんですよね。モロッコでは、ベルベル人の人たちに会ってきたんですよ。まず、家族の概念がまったく違って。「家族が車壊れて困ってるからタイミングベルト貸してくる」って言うので、誰なの?って聞くと、親戚でもなんでもなくて、隣の部落の人だったり。

観光案内のドライバーとして雇っていた青年も、自分の歳を知らないんですよ。いくつなの?って聞くと、27歳って言うけど、パスポートには25歳って書いてある。月とか日の概念もない。全然、感覚が違う人たちなんですね。

腹が減っていないと美味いものは分からない

三浦 そういうところに行くと、藤井さん実はこうじゃない?みたいな話が出てくるかもしれない。

藤井 そうね、今は安全地帯にしかいないからね。

三浦 腹が減ってないと、美味いものなのか、欲しているものかが分からないじゃないですか?本当に腹減ってる〜!っていう状態で、口いっぱいにものを詰め込んで、ぐわっ!て噛んだ時の。ミシュランでどうのうこうのっていうのも、もちろんおいしいんですけど。口いっぱいにわぁっ!て食べた瞬間の。あの状態を作ってみるのは面白いかもしれない。あわよくば、それがまた誰かの物語を書きかえて帰ってくるってなると、面白いかもしれない。

藤井 僕が何かすれば、それが誰かのところにちょっと物語として残るわけだから。

ツチノコ伝説になりたい?!

三浦 私、持っていったものを旅先でほとんどあげてきたんですよ。服とか小物とか、ちょっとずつ置いて帰ってくると、何か変わるんじゃないかと思って。バックパッカーをしてた時もそうしてました。

藤井 呪いみたいじゃない、良い意味で。

三浦 良い意味ならよかった(笑)。なんかね、ツチノコ伝説じゃないですけど、色んな伝説が勝手に発生してたら面白いじゃないですか。

藤井 いいと思う。「去年来たの、あれ人間だと思うけど、実は宇宙人じゃないか」とかって、子供たちが言ってたらいいよね。

三浦 面白いですよね。「なんだったんだアレ?」「本当にいたのか?」みたいな存在になりたいですよね。

自分にしか解けない問題を探している人を集める

藤井 僕はね、何か課題を出されるとすごく一生懸命考えて、3回に1回くらい俺は天才か!っていうぐらい、こうやったらいいじゃん、っていうのが出てくるんだよね。でも、この天才的なアイディアに対して、君らの反応の薄さはなんなの?って常々不満に思いながら生きてるんだけど。

三浦さんの場合は、そこで言うことを上手く周りが取り上げて、そうだよねって言って動いているところがすごいなと思って。道連れ型ファーストペンギンは分かるんだけど、なんでみんな手をつないで一緒に行けるんだろう?

三浦 難しくないからですかね?物語が。藤井先生が難しいことを言っているというわけではなく。すごく難しい数学の問題も、要素分解してちょっとずつやっていくと、ここは足し算だとか、ここは公式で解けるっていうふうになると言いますか。

どんどん分解してくと、その自分にしか解けない問題を探している人がいるはずで。そういう人たちが集まってくる。そうなると、自分にしか解けない部分も、だいたい過去の偉い人たちが考えている。

藤井 たいていのことはやってるんだよね。

三浦 哲学者が考えてましたとか、ギリシャ人が考えてました、とかね。でも似ているようだけど、ツールが違ったり、今の私たちは彼らにしたらめっちゃ魔法が使える状態になっていたり。科学とか、そういう色んなものが今はありますからね。

三浦さんにとっての「#現実とは」

藤井 まあ、三浦亜美の秘密をこの短時間で見つけるのは無理だったな。

三浦 そうですか?

藤井 だから、三浦亜美と一緒に働けばいいじゃん、っていうのが結論だ。

三浦 それだ!やろう!手をつなごう!

藤井 では最後に、三浦さんにとっての現実とは、を一言でお願いしたいと思います。

三浦 はい、はい。ええと、現実とは、身体のとある状態の物語だと思っています。

藤井 その「とある」はどういう意味?

三浦 なんか、それが一番クッ!と来たから。

藤井 そう?まさにそれが「とある」だもんね。クッ!とくるやつね。

(テキスト:ヨシムラマリ)