現実科学レクチャーシリーズ

Vol.33 藤原麻里菜先生レクチャー(2023/3/23開催)

デジタルハリウッド大学と現実科学ラボがお届けする「現実科学 レクチャーシリーズ」。

「現実を科学し、ゆたかにする」をテーマに、デジタルハリウッド大学大学院 藤井直敬卓越教授がホストになって各界有識者をお招きし、お話を伺うレクチャー+ディスカッションのトークイベントです。

Twitterのハッシュタグは「#現実とは」です。ぜひ、みなさんにとっての「現実」もシェアしてください。

概要

  • 開催日時:2023年3月23日(木)19:30~21:00
  • 参加費用:無料
  • 参加方法: Peatixページより、参加登録ください。お申込み後、Zoomの視聴用リンクをお送りいたします。
    視聴専用のセミナーになりますので、お客様のカメラとマイクはオフのまま、お気軽にご参加いただけます。

ご注意事項

  • 当日の内容によって、最大30分延長する可能性がございます。(ご都合の良い時間に入退出いただけます。)
  • 内容は予期なく変更となる可能性がございます。
  • ウェビナーの内容は録画させていただきます。

プログラム(90分)

  • はじめに
  • 現実科学とは:藤井直敬
  • ゲストトーク:藤原麻里菜氏
  • 対談:藤原麻里菜氏× 藤井直敬
  • Q&A

登壇者

藤原麻里菜

1993年生まれ。コンテンツクリエイター、文筆家。頭の中に浮かんだ不必要な物を何とか作り上げる「無駄づくり」を主な活動とし、YouTubeを中心にコンテンツを広げている。2013年からYouTubeチャンネル「無駄づくり」を開始。現在に至るまで200個以上の不必要なものを作る。2018年、国外での初個展「無用發明展- 無中生有的沒有用部屋in台北」を開催。25000人以上の来場者を記録した。「総務省 異能vation 破壊的な挑戦者部門 2019年度」採択。Forbes Japan「世界を変える30歳未満の30人」 2021年入選。青年版国民栄誉賞TOYP会頭特別賞受賞。

https://fujiwaram.com/

藤井直敬

藤井 直敬

医学博士/ハコスコ 代表取締役 CSO(最高科学責任者)
XRコンソーシアム代表理事、ブレインテックコンソーシアム代表理事
東北大学医学部特任教授、デジタルハリウッド大学学長補佐兼大学院卓越教授
1998年よりMIT研究員。2004年より理化学研究所脳科学総合研究センター副チームリーダー。2008年より同センターチームリーダー。2014年株式会社ハコスコ創業。
主要研究テーマは、現実科学、適応知性および社会的脳機能解明。

共催

現実科学ラボ
REPORT​​

「無駄づくり」を通じて生み出すコンテンツとは

第33回 現実科学レクチャーシリーズは、コンテンツクリエイターの藤原麻里菜さんにお越しいただきました。藤原さんの生み出すコンテンツのテーマは「無駄づくり」。その名の通り、生活の中で特に必要ではない物品を、身の回りにある素材や最新技術などを使ってあえて生み出すという活動を行っています。

これまでに200個以上のコンテンツを生み出した藤原さん。そのユニークな活動は徐々に注目を集め、2018年には台湾で初の個展を開催したほか、奇想天外で野心的な技術課題に失敗をおそれずに挑戦する人を支援する総務省のプログラムである「異能vation 破壊的な挑戦者部門 2019年度」にも採択。2021年にはForbes Japanの「世界を変える30歳未満の30人」にも入選しました。

今回のレクチャーではまず、藤原さんより「無駄づくり」の活動内容についてお話がありました。

最初に、藤原さんがこれまで制作したコンテンツを動画で紹介。「パピコをひとりで食べられる機材」「会社を休む理由を生成してくれるマシーン」「オンライン飲み会緊急脱出ボタン」「ビニール袋が風で舞うのをずっとみられるマシーン」「ぶつかると切れまくるロボット掃除機」といった品々が登場しました。これらは一見すると無駄なものですが、私たちの心の底にある欲求をくすぐり、思わずクスリと笑ってしまうようなものばかりでした。

そして、藤原さんは「無駄づくり」という活動において、いかに「無駄なもの」をつくるかということではなく、「ものをつくること」に重きを置いていると説明。この世界にないものを想像し、新しい物を生み出せるという点は、人間ならではの特徴だと語りました。

そもそも、「無駄づくり」という活動は、NHK Eテレの番組『ピタゴラスイッチ』に触発されてスタートしたものだそうです。以前、ピタゴラスイッチと同じような装置をつくろうと挑戦したものの、完成したのは失敗作だったという藤原さん。しかし出来上がった作品を「失敗」にしないために、「無駄づくり」とうたえばいいと発想したところから、独自の活動が始まったのです。

藤原さんは「無駄づくり」を掲げたことで、「それまで自分には向いていないと思っていた、ものづくりへのハードルが大きく下がった。どんなものでも生み出せる自分に気がついた」と、自分の中での感覚の変化を語りました。

そして、「人間であることを謳歌するために、ものづくりをしている部分がある。無駄かそうでないかという区分はそこまで重要ではない。思いついてワクワクするものをつくろうと思いながら活動している」と、自身の活動に対する考え方を語りました。

無駄づくりは、煩悩との戦い。悟りの境地を目指して

藤原さんはさらに、活動の意義について、仏教の考え方と絡めながら「無駄づくりは煩悩との戦い。ある意味で悟りを目指して活動を続けているところがある」と続けます。

制作するコンテンツの企画案は、自分の中の煩悩をきっかけに生まれることが多いという藤原さん。例えば、「パピコをひとりで食べられる機材」は、パピコを分け合わずにひとりで食べたいという気持ちから生まれたコンテンツ。また、「会社を休む理由を生成してくれるマシーン」も、純粋に仕事を休みたいと思ったことがきっかけで生まれたものだと言います。

お釈迦様は煩悩から生じるさまざまな悩みについて、「煩悩を持つ自分の状態に気づくことが何より大切だ」と説きました。藤原さんはその言葉を引用しながら、「無駄づくりの活動を通じて自分の煩悩に気付き、それを解決できる物をつくることで、悟りの境地に行けるのではないかと思っている」と、活動に対する想いを語りました。

また、ものづくりに没頭していると、自分を忘れる瞬間があると藤原さんは話します。そのような時間を経ると、不思議と自己理解が深まるのだそうです。そういった時間や体験を得るためにも、「とにかく何かをつくる」ことを大切にしていると言います。

「無駄なこと」が生み出す新しい価値

そして、話題は「無駄が生み出すもの」へと移りました。藤原さんは無駄をあえて肯定する意義について、「無駄なことをすることで、新しい価値が生まれる可能性がある」と言及。アメリカのプリンストン高等研究所の創設に携わったエイブラハム・フレクスナーの言葉「有用性という言葉を捨てて人間の精神を開放せよ」を引用しながら、「役に立たないことをやっていたら、どこかで役立つかもしれない。その可能性に賭けたほうがおもしろいのではないか」と、無駄なことに取り組む意味を熱弁しました。

藤原さんはさらに「無駄とは未来の価値だ」と定義。それを証明する実験として、30歳までに特にやらなくても困らないタスクに進んで取り組む『30までに別にしなくてもいい余計なことToDOリスト』という活動事例を紹介しました。例えば、知らない6歳の女の子が描いた犬の絵を、メルカリであえて購入。すると、出品者から「娘が嬉しさのあまり狂喜乱舞しました」という感謝のコメントが届いたうえに、購入した絵を自宅に飾ってみたところ、部屋全体にあたたかみが出て、不思議と絵にも愛着がわいてきたといいます。

藤原さんはこれらの体験から、無駄をあえてつくることで、「新しい発見を得る」「今まで感じなかったものに価値を感じる」「クリエイティブなことを考える余白が生まれる」といった効果があるのではないかと語りました。

そして、レクチャーの参加者に「無駄をあえてつくろう」と提案。①無駄なものをつくる、②無駄を確保する、③無駄なことをあえてする、④日々のルーティンの中に無駄をいれるという4つのポイントに、日頃の生活の中でぜひチャレンジしてみてほしいと呼びかけました。「あえて無駄を取り入れ、遠回りをすることが、心の豊かさにつながるかもしれない。もし無駄なことをして、なにも意味がなかったとしても、それを『まあ、いいか』と許せる心の寛容さがある社会であってほしいと願っている。無駄を肯定することで、新しい価値が生まれるのだ」とまとめ、藤原さんのレクチャーを終えました。

科学者の研究も「無駄づくり」と同じ?

続いて、藤井教授と藤原さんによる対談が行われました。

藤井教授はレクチャーを聴き、藤原さんの全く無駄のない整理されたレクチャー内容に「無駄づくり」というユニークな活動とのギャップを感じ「おもしろいと思った」と話します。

そして、科学者も実は「無駄づくりと同じことをやっている」と指摘。すぐには役に立たず、今後も役に立つかどうか分からない研究が、時間を経て「役に立つもの」として脚光を浴びるのだと語りました。例えば、コロナ禍で多くの命を救ったmRNA(メッセンジャーRNA)によるワクチン製造手法もそのひとつ。以前は有用性が疑われていた研究ですが、パンデミックが起きたことで状況が一変し、社会の中で研究に価値が生まれたのです。

藤井教授はそのような科学者の活動を踏まえながら、「藤原さんは人間の心の赴くままのものづくりを、純粋な形で行っているのがおもしろいと思う」と感想を述べました。

藤原さんはその話を受け、「藤井教授にとっての無駄なものは何か」と質問。藤井教授は「最近無駄なことをしていないかもしれないと心配になった」と話しながら、藤原さんのレクチャーを聞く中で思い出したという「棍棒(こんぼう)」の存在に言及。以前、ある展覧会で見た棍棒が無性に欲しくなった藤井教授は、自宅近くの山にある木で棍棒を自作。太田良さんに怒られながらも、自宅で大切なものとして隠して保管しているのだと「無駄なものエピソード」を楽しそうに披露しました。

どうすれば、寛容な社会であれるのか

藤井教授は、藤原さんが活動の中で生み出す価値はどこに生まれるものなのかと質問。それに対して藤原さんが「価値は自分の中に生まれる。それがほかの人へ伝搬したらいいなと思っている」と答えると、藤井教授はさらに、藤原さんの考える豊かな社会の姿について尋ねました。

藤原さんは「人やモノに対して、寛容な社会であってほしいと思う」と回答。社会が決める効率性から外れているものに対して不寛容が生まれていると指摘し、「生産性や効率を気にしなくてもいいと、社会に伝えたい。何かを生み出さなくても良い。もし何かを生み出したいのなら、私はその手伝いをしたい」と、藤原さんならではの考えを語りました。

藤井教授はその話を受け、「寛容性と豊かさはセットなのかもしれない。テクノロジーを使ってものすごく豊かな社会が生まれ、誰もが満たされる社会ができたとき、寛容さも生まれるのではないか。自分が満たされれば、人を貶めることをしない。人間がそういう生き物なのであれば、この世界にも、まだ希望はあると思う」と持論を述べ、対談を終えました。

藤原さんにとっての「現実」とは?

最後に、藤原さんにとっての現実の定義をお伺いしました。

藤原さんは、現実について

「無意識から生まれた意味」

と定義。現実空間では、意図なく散らばった物の中に人間が何らかの意味を見出すことができます。一方で、現在のメタバースは人間がつくり出したものであり、仮想空間に存在するものにはすべて人間の意識や意図が関与しています。その点が現実とメタバースの大きな違いだと藤原さんはまとめ、本日のレクチャーを終了しました。