現実科学レクチャーシリーズ

Vol.22 北川拓也先生レクチャー(2022/4/19開催)

現実科学ラボ・レクチャーシリーズ vol.22

デジタルハリウッド大学と現実科学ラボがお届けする「現実科学ラボ・レクチャーシリーズ」。

「現実を科学し、ゆたかにする」をテーマに、デジタルハリウッド大学大学院 藤井直敬卓越教授がホストになって各界有識者をお招きし、お話を伺うレクチャー+ディスカッションのトークイベントです。

Twitterのハッシュタグは「#現実とは」です。ぜひ、みなさんにとっての「現実」もシェアしてください。

概要

  • 開催日時:2022年4月19日(火) 19:00〜20:30
  • 参加費用:無料
  • 参加方法: Peatixページより、参加登録ください。お申込み後、Zoomの視聴用リンクをお送りいたします。
    視聴専用のセミナーになるので、お客様のカメラとマイクはオフのまま、気軽にご参加頂けます。

ご注意事項

  • 当日の内容によって、最大30分延長する可能性がございます。(ご都合の良い時間に入退出いただけます。)
  • 内容は予期なく変更となる可能性がございます。
  • ウェビナーの内容は録画させて頂きます。

プログラム(90分)

  • はじめに
  • 現実科学とは:藤井直敬
  • ゲストトーク:北川拓也氏
  • 対談:北川拓也氏 × 藤井直敬
  • Q&A

登壇者

北川 拓也

Well-being for Planet Earth理事
ハーバード大学数学・物理学専攻、同大学院物理学科博士課程を修了。物性物理の理論物理学者として、非平衡のトポロジカル相の導出理論を提案し、『Science』などの学術雑誌へ20本以上の論文を発表。楽天ではCDO(チーフデータオフィサー)、楽天技術研究所の所長としてグループ全体のAI・データ戦略の構築と実行を担い、日本を含む、アメリカやインド、フランス、シンガポールを含む海外5拠点の組織を統括した。Well-being for planet earthの共同創設者、理事。
関連リンク:https://www.linkedin.com/in/takuya-kitagawa-2b366117/

藤井直敬

藤井 直敬

医学博士/脳科学者
株式会社ハコスコ 代表取締役
東北大学特任教授/デジタルハリウッド大学大学院 卓越教授
一般社団法人 XRコンソーシアム代表理事
東北大学医学部卒業、同大大学院にて博士号取得。1998年よりマサチューセッツ工科大学(MIT)McGovern Institute 研究員。2004年より理化学研究所脳科学総合研究センター所属、適応知性研究チームリーダー他。2014年に株式会社ハコスコを創業。
主要研究テーマは、BMI、現実科学、社会的脳機能の解明など。

共催

現実科学ラボ


REPORT

マネジメントは、現実認識がより豊かになるよう育てるプロセス

今回のレクチャーは、北川さんのお話に藤井教授が問いかけを行う対談形式で実施されました。

北川さんはまず、楽天時代のマネジメント経験から見えてきた「現実」との向き合い方について語り始めました。もともとトップレベルの研究者だった北川さんが会社組織のマネジメントを経験して学んだのは、「自分の認識している現実」と「他者や世の中が見ている現実」は同じだという前提を取り払うことの大切さでした。業務やチームをマネジメントする中で発生する課題の多くは、「自分と相手の現実認識が異なることを深く理解していないから起こる」のだと北川さんは話します。

また、人間関係の中では、相手のことを変えることはできません。自在に変えることができるのは、自分の認識や行動のみです。だからこそ、マネジメントをうまく行うためには、「相手の現実認識を理解しようとすること」や「自分自身の現実認識を振り返ること」が重要なのだそうです。

例えば、北川さんは楽天時代、1日の業務が終わるとその日のミーティング内容を頭の中でリプレイし、「そのときに見ていた現実」と「今振り返って思う現実」のギャップを把握するようにしていたそうです。このように振り返ることで、ミーティングに出席していたメンバーが捉えていた現実への理解不足や、自分自身の現実認識が異なっていたために、そのとき表出した感情や行動が誤っていたかもしれないと気づけるのだといいます。

「例えば相手が嫌いだと思ってしまうこと。自分がそう感じたことを、絶対に変わらない現実として受け止めては負けだ」と語る北川さん。必要なのはメタ認知的な視点から、相手の良さや尊敬されるポイントはどこなのかを問い直すことであり、自分自身の認識を変えることが相手との関係性を変えていくのだと話します。自分の認識と行動が変われば、相手の行動が変わり、結果も変わってくるのです。

良い組織マネジメントとは結局のところ、メンバーを率いる自分自身をいかにマネジメントできるかという点に落ち着くのかもしれません。

北川さんはさらにスタンフォード大学で教えられている「フィードバックの極意」に言及しながら、「相手と自分の現実をすり合わせ、現実認識がより豊かなものになるように育てていくプロセスがマネジメントだ」と語り、経営やマネジメントの領域においても現実科学が成立することを示しました。

「マネジメントを学んだことで、自分自身の人生や人間関係が良くなるおもしろさを実感した」と話す北川さんは、その学びを通して自身の人生のWell-beingも高まったのだといいます。現実認識というと「今あるもの」にとらわれやすいものですが、人間関係やマネジメントという側面からみたとき、「自分自身が未来の現実をどうつくっていきたいのか」という点も大切だと語り、前半のトークを終えました。


人のニーズから現実認識を探る。 現実科学がもたらす「現代のWell-being」

参加者からの質疑応答を挟んだ後、話のテーマは「ビジネスの現場におけるデータ分析から見える現実」に移りました。

北川さんはもともと理論物理学の研究者です。ご自身の研究経験から、「数学や物理は論理構造を追うことで、人間が認識できていなかった現実を明らかにする学問だ」と話します。

例えば、数学の定理は数式を計算し、論理構造を見ていくことで「その定理が本当に存在する」ということが判明します。また、有名な特殊相対性理論の中で述べられている「速く動くものほど時間の進みが遅くなる」という理論も、普通に生活する中では疑わしく感じるものですが、物理学の中で論理展開を追うと「どうも現実のものらしい」ということが見えてきます。

このような現実の把握の仕方は、実はビジネスの中でも同じように使うことができると北川さんは話します。例えば、「さまざまな人のニーズ」という現実を、データをもとに明らかにすることができます。

人はそれぞれ現実認識が異なるからこそ、人それぞれ欲しい物やどのようにニーズを表明するかは変わってきます。ビジネスの中で誰かのニーズを探りたいと思っても、自分の現実の中に生きていると他者のニーズを想像することは難しいものです。だからこそ、データ分析がニーズの明確化に活きてきます。

北川さんが携わってきたEコマースの領域では、人が購買行動を行うとき、7割が「ブランド名×カテゴリ」で検索するのだそうです。人のニーズは、カテゴリとブランドで決まることが多いという事実は、何百万件、何億件というデータを解析すると「人のニーズ」が見え、世界観が明らかになるということだと北川さんは語ります。

北川さんは、そのようにしていろいろな人の現実認識が把握できたとき、各個人のWell-being向上につながっていくと考えているといいます。

藤井教授はこの話を受け「現代のWell-beingは昔と質も量も異なる。定義しなおすことが必要だ」と語り、北川さんも「現実科学を理解することこそが、Well-beingにつながっていく」と語りました。その上で、これからの科学は今までの「データは常に再現性が必要なものだ」という思い込みを捨て、主観的データの客観的な分析にも手を広げていくべきだと北川さんは話します。

藤井教授は「内面が可視化されるようなテクノロジーができたときに、社会の中でどのような形で使うのが正しいのだろうか」と北川さんに問いかけました。

北川さんは「人が価値を生み、やる気を出すために使われるべきだと思う。人のWell-being向上に向けた努力のために使われたら一番いい」と答え、価値は因果関係によって生まれるものではなく、時間軸やレイヤーの違いなど、多方面から分析することが必要だと語りました。


北川さんにとっての「現実」とは?

最後に、北川さんにとっての「現実とは何か」をお伺いしました。

北川さんは

「過去の事実を生んだ論理構造であり、未来の価値を生むために感情によって解釈し直すべきもの」

と語りました。

データ分析によって「過去の現実はどのようなものだったのか」を探れる一方で、未来の価値を生むためには、自分自身の感情と向き合いながら、現実を解釈する態度が変わってくる。ビジネスの現場で組織マネジメントの難しさに直面してきた北川さんだからこその「現実の定義」を伺うことができました。