デジタルハリウッド大学と現実科学ラボがお届けする「現実科学 レクチャーシリーズ」。
「現実を科学し、ゆたかにする」をテーマに、デジタルハリウッド大学大学院 藤井直敬卓越教授がホストになって各界有識者をお招きし、お話を伺うレクチャー+ディスカッションのトークイベントです。
Twitterのハッシュタグは「#現実とは」です。ぜひ、みなさんにとっての「現実」もシェアしてください。
概要
- 開催日時:2022年10月24日(月) 19:30〜21:00
- 参加費用:無料
- 参加方法: Peatixページより、参加登録ください。お申込み後、Zoomの視聴用リンクをお送りいたします。
視聴専用のセミナーになるので、お客様のカメラとマイクはオフのまま、気軽にご参加頂けます。
ご注意事項
- 当日の内容によって、最大30分延長する可能性がございます。(ご都合の良い時間に入退出いただけます。)
- 内容は予期なく変更となる可能性がございます。
- ウェビナーの内容は録画させて頂きます。
プログラム(90分)
- はじめに
- 現実科学とは:藤井直敬
- ゲストトーク:落合陽一氏
- 対談:落合陽一氏 × 藤井直敬
- Q&A
登壇者
落合陽一
メディアアーティスト。1987年生まれ、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了( 学際情報学府初の早期修了)、博士(学際情報学)。筑波大学デジタルネイチャー開発研究センターセンター長、准教授・JSTCRESTxDiversityプロジェクト研究代表。IPA認定スーパークリエータ/天才プログラマー。ピクシーダスト テクノロジーズ代表取締役。
2017 – 2019年まで筑波大学学長補佐、2018年より内閣府知的財産戦略ビジョン専門調査会委員、内閣府「ムーンショット型研究開発制度」ビジョナリー会議委員及び内閣府ムーンショットアンバサダー、デジタル改革法案WG構成員、2020 – 2021年度文化庁文化交流使、大阪・関西万博テーマ事業プロデューサーなどを歴任。
2015年WorldTechnologyAward、2016年PrixArsElectronica、EUよりSTARTSPrizeを受賞。LavalVirtualAwardを2017年まで4年連続5回受賞、2017年スイス・ザンガレンシンポジウムよりLeadersofTomorrow選出、2019年SXSWCreativeExperienceARR OWAwards受賞、2021年MIT Technology Review Innovators Under 35 Japan、2021 PMI Future 50、Apollo Magazine 40 UNDER 40 ART and TECHなどをはじめアート分野・テクノロジー分野で受賞多数。
個展として「ImageandMatter(マレーシア・2016)」、「質量への憧憬(東京・2019)」、「情念との反芻(ライカ銀座・2019)」など。その他の展示として、「AI展(バービカンセンター、イギリス・2019)」、「計算機自然(未来館・2020)」 など多数出展。著作として「魔法の世紀(2015)」、「デジタルネイチャー(2018)」など。写真集「質量への憧憬(amana・2019)」など。 メディアアートを計算機自然のヴァナキュラー的民藝と捉え、「物化する計算機自然と対峙し、質量と映像の間にある憧憬や情念を反芻する」をステートメントに、研究や芸術活動の枠を自由に越境し、探求と表現を継続している。
PHOTO:蜷川実花
藤井 直敬
医学博士/ハコスコ 代表取締役 CSO(最高科学責任者)
XRコンソーシアム代表理事、ブレインテックコンソーシアム代表理事
東北大学医学部特任教授、デジタルハリウッド大学学長補佐兼大学院卓越教授
1998年よりMIT研究員。2004年より理化学研究所脳科学総合研究センター副チームリーダー。2008年より同センターチームリーダー。2014年株式会社ハコスコ創業。
主要研究テーマは、現実科学、適応知性および社会的脳機能解明。
共催
世界のあらゆる原理原則を変える「デジタルネイチャー」とは
28回目の現実科学レクチャーシリーズは、研究、メディアアート、ビジネスなど多方面で活躍されている落合陽一さんにお越しいただきました。今回は落合さんと藤井教授の対談形式で開催。「テクノロジーを使った世の中の変化」というテーマを軸に、さまざまな意見が交わされました。
まずは落合さんが視聴者に向けて、自身の研究テーマを簡単に説明。落合さんはさまざまな活動を通して、「計算機自然(デジタルネイチャー)」というテーマを追求しているといいます。計算機自然とは、コンピュータと人やモノ、自然が接続して親和することで再構築される新たな自然環境のこと。あらゆるものがコンピュータの下層にあり、コードによって記述される世界です。
将来、コンピュータやセンサーなどがいたるところに存在し、いつでもどこでも使えるようになったとき、私たちの世界は大きく変わり計算機自然が到来することになると落合さんは考えています。計算機自然になれば、世界のあらゆる原理原則は変化します。物質とバーチャルの間にさまざまな選択肢が生まれ、これまでの社会よりもさらに多様な未来の形が起こりえるのです。いずれは元来の自然の中に計算機が自律的に組み込まれていく世界、人類が滅んでも計算機自然がそのまま残っていく世界が来るかもしれないと、落合さんは自身の考えを語りました。
機械が人間を超えたとき、「実存」と「幸福」の問題をどう乗り越えるか
そして、議題は「計算機が人の意識・知能レベルを超えたときにおこる『人の実存』と『幸福』の問題」に発展しました。
落合さんは最近のオープンソースを見ていると、すでに機械が人を超越し始めていると感じているそうです。例えば、自動生成ソフトを使って音楽をつくるとき、最近のソフトは30秒の曲を9秒でつくれてしまいます。これは大きなパラダイムシフトです。なぜなら、創作にかける時間と成果物の関係性が大きく崩れ始めているからです。人間が音楽を作るには、その曲の時間相当かそれ以上の時間を投入する必要があります。しかし、機械はごく短時間で「人が普通に感動できる曲」をつくれてしまうのです。
藤井教授はその話を聞いて「大きなショックだ」と感想を述べました。音楽でも文章でも、自動生成ソフトを使えば数秒先に感動的な創作物が出てくる未来は、自由意志による創作の意味が薄れ、人間は何のために存在しているのかという根本的な問題が私たちに突き付けられることとなります。落合さんも音楽の自動生成ソフトを使用してそのことに気付いたとき、藤井教授と同じように大きなショックを受けたそうです。「ショック状態から脱するのに1週間はかかった」と話します。
ただ、落合さんは学生との対話の中で「自然の進化スピードが上がり、人間はもう追いつけなくなってしまうのだ」という事実に気付き、ショックから立ち直れたと語りました。計算機自然が到来した後の世界では、自然科学や理論の探求、重要な意思決定などはすべて機械に任せて、人間は「楽しいこと」や「思い出」を追求して生きていけば良いという結論に至ったのだそうです。「この先の未来、人間の実存は突破されて感動しか残らない。目の前の美しい作品や品々に感動し、喜びを共有し合って平和に過ごす世界になる」と落合さんは語ります。
そして、その世界観は日本に昔からあった「民芸」の精神性に通ずるものがあります。落合さんは明治から昭和にかけて活動した美術評論家・民藝運動の主唱者である柳宗悦の言葉を引用しながら、「日常の楽しみに心の平和を見出す」という民芸のように生き、最終的には「今を生きる」ことが良しとされる世界になるのではないかと語りました。
落合さんにとっての「現実」とは?
最後に、落合さんにとっての「現実とは」をお伺いしました。
落合さんは『ピーターパン』の物語の中でウェンディが語った言葉を引用しながら、現実を
「夢と物理世界の間にあるもの」
だと定義づけました。これからの社会は現実が高速に生成され、人間が追いつくには「夢」が速く過ぎ去ってしまうからこそ、今は質量を持った「人間」のほうがおもしろいかもしれないと語り、本日のレクチャーが盛会のうちに幕を閉じました。